災害は起こってほしくないものですが、地震や台風、豪雨などによる自然災害はいつ起こるかわかりません。そのため、1人1人が万が一に備えておく必要があります。実際に「非常食セット」と検索をすると、様々なグッズが紹介されたり、販売されたりしています。
そこで今回は、Levac, J.(2023)のレビュー文献を参考に、緊急時や自然災害時の非常食セットについて検討したいと思います。
世界保健機関(WHO)は「大規模緊急事態における栄養管理に関するマニュアル」にて、災害時の死亡率や罹患率を防ぐためには、食料を確保し、食事量を減らさないことが不可欠であると示されています。
また、1日に必要な1人当たりの摂取量は、エネルギーが約2,100kcal、タンパク質が体重1kgあたり1g、その他、鉄、ヨウ素、ナイアシン、ビタミンA・B1・C・Dなどの微量栄養素を補う必要があると記載されています。さらに、自然災害に備えた緊急防災セットは、政府機関だけではなく市民も用意すべきであると示されています。
しかし、ある国の緊急防災セットの必需品には、「非常食」と記載があるものの、1人当たりに必要な栄養摂取量の指定がありませんでした。そこで緊急防災セットを準備するために必要な非常食について、エビデンスに基づいた推奨事項を提供することを目的にレビューを作成します。
文献調査を行った結果、非常食セットの推奨事項を作成する際に活用した資料は、マニュアル、政府のガイドライン、WHO、赤十字、国際連合などの組織が提言しているものを含めて、29報でした。緊急事態に対応するための適切な食料については、それぞれの地域が国の文化や慣れ親しんだ食品を挙げてまとめていました(表1)。
(文献を基に作表)
結論として、非常食セットを作成する際に重要なことは、年齢、性別、栄養状態など各自の栄養ニーズや嗜好、食べやすさに応じること、食料を適切に保存するために継続的に更新することです。
(文献)
自然災害は、日本だけではなく世界各国で発生していることから、それぞれの地域に合わせた食材や食品が紹介されていました。共通点は、エネルギー量の設定、腐敗の対策として水分量が少ない乾物や粉末、エネルギー量が高く常温保存可能であるゼリーやピーナッツバター、嗜好品のお菓子や紅茶、コーヒーなどがありました。
日本の場合は、農林水産省から1人分の必要量は最低でも3日分の食事を用意すること1)と記載がありますが、1日に必要なエネルギー摂取量は明記されていません。
必要なエネルギー量やタンパク質量は、年齢・性別・日頃の活動量などによって異なりますが、自分に必要な栄養素量を知っておくことは、非常事態が起きた際の対応の1つとして大切であると考えています。推定エネルギー必要量は、 日本人の食事摂取基準(2020年版)で算定されています(表2)。
性別、年齢、身体活動レベルに合わせて、推定エネルギー必要量は大きく異なることが分かります。
また、上記の文献では、タンパク質の必要量が明記されていました。実際に被災地の食事の課題として、タンパク質が不足していることが挙げられています。
詳しくは、「被災に伴い不足しがちなタンパク質や微量栄養素を摂取するポイントは?? 」をご覧ください。
これらを踏まえて、非常食を用いた献立の一例(1500kcal/日)を作成しました(表3)。
献立の組み立て方は、始めにエネルギー源である主食を選びます。お米が続くと飽きてしまう可能性があるため、昼食は麺類を選択しました。次に主菜です。タンパク質を多く含む食品である肉・魚・卵などは、主に主菜として使用されます。
そして最後に、ビタミンやミネラルをとるために重要となる副菜を選択しました。
今回設定したエネルギーやタンパク質より必要量が多い場合は、3食の食事以外にアルファ米チキンライスやツナをのせたクラッカーなどの補食を取り入れることで、必要なエネルギー量に近づくのではないでしょうか。
その他、献立を組み立てる際は、食べ慣れている商品を選択することも考える必要があります。例えば、上記の献立であれば、カップラーメンや野菜ジュース、フリーズドライの味噌汁を指します。しかし、備蓄したままでは賞味期限が切れてしまう可能性があるため、備蓄しているものを定期的に消費しながら買い足していく「ローリングストック」を実行することがおすすめです。
非常食セットに必要なことは、以下の3点です。
1.生命の維持に必要なエネルギー源になる食品を準備する
2.健康状態を保つために必要なタンパク質や微量栄養素を考慮する
3.嗜好や食べやすさを考える
主食、主菜、副菜と整理しながら揃えていくことで、必要なエネルギー量と栄養素を確保できると思います。緊急時や自然災害時でもできる限り健康に過ごすために、ローリングストックを意識しながら非常食の見直しや準備をしてみてはいかがでしょうか。
2024年1月15日 参照
(文責)
吉本 寛那