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医療現場でのココア利用事例報告
当ページは医療従事者の方を対象としています
CASE REPORT:第38回日本看護学会抄録集 成人看護2 2007, 85
ココアを臨床に応用しようとしたきっかけと目的
A病棟にはストーマ装具を交換できるスペースを設けているが、術後患者が動けない時は大部屋にて交換することが多い。その時の便臭対策として消臭スプレーの使用や排泄物をすぐビニール袋に入れるなど行っている。しかし便臭が廊下まで漂ったり、同室者が部屋を出ることもあった。先行研究において、ココアによる自然排便の便臭改善効果が報告されており、ストーマ造設患者にも効果があるのではないかと考え、「ココアを飲用することで便臭の軽減を図る」を目的に3名の対象者に取り組んだ結果を報告する。
データおよび説明
【対象者】A病棟でストーマ造設術を受けた患者3名
(症例1) | 60代 女性 術式:S状結腸切除・人工肛門造設(コロストミー) 研究期間:15日間 食事形態:一般食(全粥) |
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(症例2) | 50代 男性 術式:腹会陰式直腸切除術(コロストミー) 研究期間:21日間 食事形態:一般食(常食) |
(症例3) | 40代 女性 術式:小腸切除術(イレオストミー) 研究期間:22日間 食事形態:一般食(常食) |
用語の定義
1、ココア: | 一般のココアに比べ食物繊維が2倍、ポリフェノールが3倍のココアを使用し、小さじ4杯に水か湯、または食事についてくる牛乳を100ml加えたものとする。甘さが足りない時はオリゴ糖を2〜3杯加える。 |
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2、臭いセンサー: | ポータブルにおいモニターGT300−AQ。一般的な数値の目安は、新鮮な空気を1、公衆トイレを10〜40、採取したオナラを50〜100であり、最大200まで表示することができる。 |
3、臭い判定: | 看護師2〜3人により「1」をにおいが気にならない、「5」を非常に気になるとして便のにおいを5段階で評価する方法(表1) |
方法と経過
1)ココア飲用前の3日間、便排除時に便をビニール袋にいれ、臭いセンサーを用いて測定する。
その後ココアを1日2回10時・15時に飲用し、便排除時に2週間〜3週間同様に測定する。
2)同時に臭い判定を行う。判定看護師は、日本テオドール株式会社のパネル選定用基準臭を使用し嗅覚検査を行い、
正常とみなされた者が行う。
3)判定の際は食事や花の匂いなどの環境によりバイアスを生じるため、パウチ交換時にすぐにビニール袋に入れることで
バイアスはないものとする。
4)研究中は食事により便臭が変化するため、病院食以外は食べないよう患者に協力を得る。
5)開始前後に患者に便臭に対しての思い、ココア飲用による便臭の変化について意見を聞く。
結果
症例1はココア飲用前、臭いセンサーの平均値は132.7であった。
ココア飲用後1週間の平均値は117.9で、2週目は96.1であった。臭い判定は飲用前の平均値3.6、
1週目3.7、2週目3であった(図1)。看護師からもココアを飲用するようになって、便排除時の便臭が気にならないようになった。患者からも「ココアを飲んでよかった。今後も便通調整のためココアを飲み続けたい。」という声が聞かれた。
症例2はココア飲用前、臭いセンサーでの平均値は138.7であった。ココア飲用後1週間の平均値は120で、2週目は116.7で、3週目は110.9であった。臭い判定では飲用前の平均値4.6、1週目4.4、2週目3.7、3週目3.1であった。(図2) ココア飲用前はパウチを開いた瞬間から部屋中に充満するほどの便臭があり、患者からも「臭いね。」という声が聞かれたがココア飲用2週目頃より便臭が軽減し始め、便臭測定の際にビニール袋に顔を近づければ臭う程度まで軽減した。本人からも「最初よりは臭いがしなくなった。」という声が聞かれた。研究終了後、ココアの飲用を中止したところ臭いが増強し、「やっぱり、ココアを飲まないと臭くなる。」という声が聞かれ、ココアの飲用を再開した。
症例3はココア飲用前、臭いセンサーの平均値は108.7であった。ココア飲用1週目の平均値は104.7、2週目は120.3、3週目は95.9であった。臭い判定は飲用前の平均値3.1、1週目3.4、2週目3.0、3週目3.3であった。(図3)患者からはココア飲用前後を通して、「便排除時も臭いはあまり気にならない。でも以前と比べたら少しは臭わなくなったような気がする。」という声が聞かれた。
コメント
ストーマ造設後は「便」に対して臭いなどのマイナスイメージを持ちながら、日々の排泄ケアを行っていかなければなりません。ストーマ装具だけでも大きな費用がかかる患者にとって便臭対策製品は高価なため更なる経済的負担となってしまいます。「ココアを飲んでみてよかった、研究終了後も続けて飲みたい」という声が聞かれたのは、使用したココアが安価で手に入りやすく、患者の負担とならずに長期間使用できるからと考えます。さらに、便臭効果以外にも便通改善やリラックス効果、抗菌作用などの健康効果があると広く認知されていることから親しみがあり受け入れられやすかったからではないでしょうか。装具の漏れや交換の手技、臭いになど様々な不安を持っている患者に対し、ココアを飲用することで臭いという一つの不安を軽減する手段となったと思います。
国家公務員共済組合連合会 佐世保共済病院
医療安全管理室 医療安全管理者 山﨑 純子