ココアの冷え性改善効果

冷え性は、血液の循環が悪くなり、手足や腰が冷え不快に感じる症状のことです。
女性の多くは冷え性に悩んでいると言われ、最近では男性にも増えていると言われています。
ココアは寒い時期にホッとして温まる飲み物として好まれていますが、実際に冷え性改善効果の有無については検討されていませんでした。
今回の研究では、冷えやすい体質「冷え性」を自覚する若い女性を対象に、ココアおよび他の嗜好飲料の冷え性に対する効果を比較検討しました。

第1章:ココアの冷え性改善効果

1. 実験方法

実験の流れ

試験開始2時間半前から飲食は控え、実験室に集合後30分間安静な状態を保っていただきました。
試験飲料飲用前の手の甲の体表面温度を測定後、試験飲料を飲み、その後5分間間隔で体表面温度を測定しました。
体表面温度測定には、医用サーモグラフィー「インフラアイ」(日本光電工業製)を用いました。

色で示された温度変化を数値化するため、指の付け根での温度を手の甲の温度の代表とし、数値化しました。
この被験者の場合、ココアは緑茶やお湯に比較し、温度上昇が長時間維持されていることが分かります。

実験室内は25℃を保ち、被験者がリラックスできるように部屋を薄暗くしました。
なお、この実験室の温度は、冷房により少し冷え気味の夏のオフィスを想定して設定しました。
また、被験者はエアコンディショナーの風が直接当たらない場所に座って頂きました。

試験飲料は、ホットドリンクとしてココア、コーヒー、緑茶、お湯の4種類、アイスドリンクとしてココア及び麦茶の2種類としました。
ホットドリンクは70〜75℃に、アイスドリンクは0〜3℃に保った飲料をそれぞれ100ml飲んでいただきました。

2. 実験結果①

実際のサーモグラフィーでのデータを示します。
手の甲の表面温度はこのように色で示され、赤いほうが温度が高く、青くなるほど温度は低いことを表しています。

3. ホットドリンクまとめ

被験者 試験飲料 評価
ホット
ココア
お湯 ホット
コーヒー
温緑茶
NO.1 ココア>緑茶>お湯≧コーヒー
NO.2 ココア>コーヒー=緑茶>お湯
NO.3 ココア>コーヒー≒お湯>お湯
NO.4 ココア>お湯≧緑茶
NO.5 ココア>お湯>コーヒー
NO.6 ココア>お湯≧緑茶
NO.7 ココア>お湯>コーヒー
NO.8 ココア≒緑茶≒お湯
NO.9 ココア≒コーヒー≒お湯
NO.10 緑茶≧ココア>お湯≧コーヒー
NO.11 ココア>コーヒー>緑茶>お湯
NO.12 ココア>緑茶>コーヒー>お湯

人によって効果の程度は異なりますが、平均すると、ココアが他の飲料に比較し温度上昇の維持が長く保たれることが分かりました。

4. 実験結果②

これはアイスドリンクを飲んだ際の一例です。
この被験者の場合、アイスココアはほとんど温度低下を示さないが麦茶では温度の低下が起こり、冷えをもたらしていることがわかります。

5. アイスドリンクまとめ

被験者 試験飲料 評価
アイスココア 麦茶
NO.1 アイスココア≒麦茶
NO.2 アイスココア>麦茶
NO.3 アイスココア>麦茶
NO.4 アイスココア>麦茶
NO.5 麦茶≧アイスココア
NO.6 麦茶>アイスココア

アイスドリンクの結果をまとめた表を示します。
アイスドリンクを飲むと体表面温度は低下しますが、ココアの場合はその程度が小さく、あまり冷えを感じずに冷たい飲料を摂取することが出来ることが分かりました。

6. 指先血流量の推定

冷え性は血液の循環が悪いことが原因の一つと考えられています。
そこで、サーモグラフィーによる体表面温度の変化に加えて、指先の血流量の変化を測定することにしました。
指先血流量の測定には、日本光電工業社製のベッドサイドモニターBSM-2301を用いました。

7. 指先血流量 -ホットドリンクまとめ-

被験者 評価
NO.1 ホットココア>ホットコーヒー
NO.2 ホットココア≧ホットコーヒー
NO.3 ホットココア>ホットコーヒー
NO.4 ホットココア>ホットコーヒー

ホットドリンクを摂取した4名の平均です。
この結果、ココアはコーヒーと比較し指先血流量を増加させる効果のあることが明らかとなり、サーモグラフィーの結果と相関することが分かりました。
このことから、体表面温度の維持効果は、血流量変化に伴って発揮された効果であることが示唆されました。

8. 指先血流量 -アイスドリンクまとめ-

被験者 評価
NO.1 アイスココア>麦茶
NO.2 麦茶>アイスココア
NO.3 アイスココア>麦茶
NO.4 アイスココア≒麦茶
NO.5 アイスココア≧麦茶
NO.6 アイスココア>麦茶

このグラフは、アイスドリンクを飲んだ場合の結果示しており、これもココアの方が麦茶に比較し指先血流量の低下が少なく、サーモグラフィーの結果と良く合うことが分かりました。

9. 結論

  1. 1)ホットココアは、他の飲料に比べ体表面温度の上昇が顕著にみられ、またその持続時間が長かった。つまり、他の飲料より冷え性改善効果が高いと言えます。
  2. 2)アイスココアは、体表面温度の変化が少ないかあるいは低下しても元の温度に戻る傾向がみられました。
  3. 3)ココアの冷え性改善効果は、身体の末梢部の血行改善効果が主な原因であることが示唆されました。

第2章:ココアとショウガの冷え性改善効果比較

冷えを抑制する飲料として代表的な「ショウガ」と「ココア」について、それぞれの特徴(冷えを抑制する体の部位や摂取してから冷えを抑制するまでのスピード等)を明らかにすることを目的に研究を行いました。

1. 実験方法

「第1章:ココアの冷え性改善効果」からの変更点

実験方法は基本的に「第1章:ココアの冷え性改善効果」に従いました。被験者は冷え性を自覚し、冷え性診断基準(※)アンケートで冷え性と判断された11名の女性にお願いしました。前回は室温25℃で実験を行いましたが、今回はより寒さの厳しい23℃〜24℃に室温を設定しました。試験飲料は、栄養成分およびカロリーを合わせて調整し、約70℃の温度で提供しました。
また、「ココア」は主に体末梢部そして「ショウガ」は主に体幹部を温めるとの仮説により、サーモグラフィーを使用して“手の甲(体末梢部の代表)”および“頭部”を測定しました。

※冷え性診断基準
寺澤捷年(1987) 漢方医学における「冷え症」の認識とその治療、生薬学雑誌、41(2), 85-96 を参考にしました。

2. 実験結果① 手の甲表面温度の変化

実際の実験結果の一例です。この例では、手の甲に関して、「ココア」の方が「ショウガ」に比較して冷えを抑制する効果が長く持続することが出来ました。

3. 実験結果② 頭部表面温度の変化

実験結果①で手の甲表面温度を測定した同一被験者の頭部サーモグラフィーデータです。

首、額及び頬表面温度はその温度変化が小さく、「ココア」と「ショウガ」の間に大きな差は見られませんでした。鼻に関しては、頭部の中では末梢部に位置するからだと思われますが、他の部位に比較して温度変化が大きいことが分かりました。しかし、時間経過により温度変化の程度は異なりますが、試験時間全体を通して見ると 「ココア」には「ショウガ」と同等程度の冷え性抑制効果があることを確認しました。

4. 実験結果③ 手の甲表面温度の変化(まとめ)

冷え性と判断された女性11名の手の甲表面温度の変化をまとめたグラフです。飲料摂取後15分まではショウガの方が温度上昇の程度が高く、上昇するスピードも速いと言う結果になりました。
しかし、15分以降はココアの方が温度低下が緩やかで、冷えを抑制する傾向が高いことが分かりました。

5. 実験結果④ 頭部(首、額、頬、鼻)表面温度の変化(まとめ)

冷え性と判断された女性11名の頭部表面温度の変化をまとめたグラフです。温度測定は、首、額、頬、鼻の4箇所で行いました。

「ココア」飲料や「ショウガ」飲料を摂取しても温度がわずかに上昇するのみで、時間経過による温度低下の程度も小さいことが分かりました。頭部は生命維持にとって重要な臓器であるので、出来る限り恒常性を保つシステムになっていることがその理由と思われます。
しかし、鼻の頭は頭部においては末梢部に位置し、外部気温の影響を受けやすい部位と考えられます。今回測定した全ての部位で「ココア」と「ショウガ」はほぼ同等の温度変化を示し、「ココア」と「ショウガ」は同等程度の冷え性抑制効果があることを確認しました。

6. 結論

  1. 1)手の甲表面温度(体末梢部)については、飲料摂取後の温度上昇の立ち上がりが「ショウガ」の方が速い傾向にあり、その温度上昇程度も高い傾向にありました。しかし、その後「ショウガ」は急速に温度低下が始まるのに対し、「ココア」はその温度低下が緩やかで長く冷えを抑制する効果が持続することが分かりました。
  2. 2)首や額(体幹部の温め効果を表していると想定)の体表面温度では、そもそも飲料摂取による温度変化が小さく「ココア」と「ショウガ」には大きな差は認められませんでした。
  3. 3)今回の試験結果から、「ココア」と「ショウガ」はその冷え性抑制効果の表れ方に違いはあるものの、同じように冷え性を抑制する食品と考えられます。

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