ココアの便通および便臭改善効果

若い女性だけでなく高齢者の男女に多い、他人には言えない便秘の悩み。
ココアは長い飲用経験があり、世界中で親しまれているおいしい飲み物で、その中にはカカオフラバノール等のポリフェノール、微量ミネラル等を含むと共に不溶性の食物繊維も豊富に含まれています。この不溶性食物繊維中でも約60%と最も多く含まれるリグニンに着目してヒトでの試験を実施したところ、便通や便の臭い(便臭)に対する効果についての効果が明らかになりました。

ここでは、わが国での便秘の現状や便臭についての解説と、ココアの便通や便臭に対する効果について詳しい研究成果をまとめています。

第1章:便秘に悩む日本人

わが国では便秘を訴える人は年を追うごとに増加し、厚生労働省の調査によれば、人口千人あたりにすると男性26.0人、女性48.7人となっています。20歳から60歳では女性が圧倒的に多いのが特徴で、便秘による女性のQOL低下が問題化しています。また60歳代以上では、男女ともに年齢が上がるにつれて便秘を訴える人が増加します。この状況を考えた場合、近年の人口高齢化に伴い便秘を訴える人は確実に増加することが予想され、高齢者のQOLを著しく低下させる一因として危惧されています。

※QOL( Quality of life )
「生活の質」「生命の質」などと訳され、患者さんの身体的な苦痛を取り除くだけでなく、精神的、社会的活動を含めた総合的な活力、生きがい、満足度という意味。

【便秘の自覚症状を訴える人の割合】(単位:人口千対)

出展:「平成25年 国民生活基礎調査」(厚生労働省)
*グラフは同調査データを元に作成

第2章:日本人の食物繊維 摂取の実態

習慣性の便秘には食物繊維の摂取不足が大きく関与していると言われています。平成26年国民健康・栄養調査によれば、日本人の食物繊維摂取量は減少傾向にあり、2014年は成人女性が14.4gで2015年度日本人の食事摂取基準の目標摂取量(女性:18g、男性:20g)から3.6gの不足、成人男性が15.1gで4.9gの不足となっています。さらに水溶性食物繊維と不溶性食物繊維について見てみると、2001年から2014年までの間に水溶性食物繊維の成人での摂取量は3.5gから3.4gとほとんど変化はないが、不溶性食物繊維は11.6gから10.8gと減少量が大きく、特に女性の方がその減少量は顕著であり不溶性食物繊維の不足が懸念されています。

※厚生労働省 平成26年国民健康・栄養調査報告より

第3章:便臭について

便の臭い、強さには摂取した食事や腸内細菌叢の状態が関与すると言われています。
さらに、腸の調子が悪かったり、便秘になると便の臭いが強くなります。これは腸内に便が長期間溜まり、腸内細菌に悪い影響を与え、悪玉菌が増殖すると、アンモニアなどのおならの元となるガスを発生させるためです。

また、介護や看護の現場では排便の補助や処置が必要ですが、介護士や看護師においては便の臭いが少なくなるだけでも精神的負担が減ることから、便臭の低下が望まれているのです。

このように、便臭の低減は便秘に悩んでいる人自身のQOLの向上のほか、今後さらにすすんでいく高齢化社会においては介護される高齢者自身のQOLの向上や介護する人たちの負担軽減の観点からもたいへん有用であると考えられます。

第4章:ココア摂取による便通および便臭改善ヒト試験について

ココアには食物繊維の一つであるカカオ由来のリグニンが多く含まれています。
このリグニンに着目して、便秘で悩んでいる方を対象に、ヒトがココアを2週間継続して飲んだ時の便通や便臭改善における効果を確認しました。

対象者:
20歳から60歳の健康な男女で便秘傾向の方。
被験者:
22人を無作為に2群に分けた。
試験食品:
●被験食品/ココア10g(リグニン含量1.5g)に飲みやすくするため砂糖を加え飲料として提供した。
●対照食品/被験食品対照として外観、容量、色等からは区別できないように調整し同量の砂糖を加えたココア風味飲料(リグニン含量0g)を提供した。
飲用期間:
それぞれ2週間ずつ被験食品または対照食品を摂取するクロスオーバー試験を実施。ウォッシュアウト期間は2週間とした。
評価項目:
アンケートによる評価(排便回数、排便量、便性状、便臭)および機器分析による評価(糞便中のアンモニア、インドール、スカトール濃度の定量)を第1期摂取開始前、第1期介入終了後、第2期摂取開始前、第2期介入終了後の計4回実施した。

<試験結果>
ココア摂取による排便回数の増加について

2週間あたりの排便回数の比較評価
平均値±標準偏差
P<0.05 対照食品群に対して有意差あり

1日ごとの排便回数を記録し、被験食品(ココア10g)と対照食品について摂取開始前期間の平均値と摂取後の平均値を比較しました。

摂取2週間の排便回数の合計は、ココア摂取時では、開始前が8.4士0.6回、摂取期が9.3士0.7回でした。対照食品摂取時では、開始前が8.2士0.5 回、摂取期が8.1土0.6回でした。統計解析の結果、対照食品との食品間比較において、ココア摂取期に排便回数が増加し有意差(P=0.015 )が認められました。

ココア摂取による便臭(アンモニア量)の変化について

アンモニア変化量の比較評価
平均値±標準偏差
**P<0.01 対照食品群に対して有意差あり

お通じの気になるニオイの元である、糞便中のアンモニア量を摂取開始前と摂取後でイオンクロマトグラフィーを用い分析、比較しました。

糞便中のアンモニアの変化量は、ココア摂取時では-0.19士0.05mg/gと減少、対照食品摂取時では0.10士0.06mg/gと増加しました。統計解析の結果、食品間比較においてアンモニア濃度減少の有意差(P=0.001)が認められました。

<考察>
ココア中のリグニンによる便通・便通改善のメカニズムについて

ココアに特徴的に多く含まれているリグニンは、ココア含有不溶性食物繊維の約60%を占め、他の不溶性食物繊維であるセルロースやヘミセルロースに比較して消化管内での消化性が極めて低く、その約80%が便中に排泄されます。

今回の被験食品であるココアのカカオリグニン量は1回分10g当たり約1.5gでした。従って約1.2gのリグニンが消化されず便中に残り、周囲の水分を吸収・膨潤することで便が嵩増しされ大腸を刺激し、便意を催すことから排便回数を増加し便通改善につながったと考えられます。

また、リグニンが消化粥中のアンモニア量を減少させたとするSchedleらが行った研究からも、リグニンが便臭改善においても主たる関与成分であることを示唆しています。Schedleらはアンモニア量が有意に減少したメカニズムとして、リグニンによる大腸内での発酵状態の変化およびアンモニアの吸着と考察しています。

まとめ

年齢が20歳から60歳の男女で便秘傾向の健康な生活を営む試験対象者が、ココア10gを 1日1回2週間摂取することで

  1. 1)排便回数が増加し便通が改善されました。
  2. 2)糞便中のアンモニア量が減少し、便臭改善効果がありました。
  3. 3)またこれら双方の改善効果に関与する成分としては、ココアに含まれる不溶性食物繊維であるカカオリグニンの関与が高いと考えられました。

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