甘酒は、江戸時代には健康飲料として一般に飲まれていたと考えられており、近年でもブドウ糖を始めとした多くの栄養素を含むことから「飲む点滴」と言われ、疲労回復効果が期待されています。
今回は、伝承的に期待されてきた甘酒の疲労感軽減効果がブトウ糖などの糖類によるものか、甘酒由来の成分によるものかを検証しました。
試験対象
日頃から疲労感を感じている50〜64歳の女性10名を5名ずつ2グループに分けて試験
試験飲料
■甘酒群:酒粕と米麹を使用した甘酒(190g)
■対照群:酒粕と米麹を使用せず糖類でカロリーをそろえた甘酒風味飲料(190g)
方法
酒粕と米麹を使用した甘酒(190g)を2週間毎日1本ずつ飲んだ対象者に、日常生活で生じる精神的疲労と身体的疲労を誘導するための計算課題とバイク運動をそれぞれ30分間行ってもらった後、酒粕と米麹で作った甘酒を1本飲んで休憩を60分間とってもらいました。酒粕と米麹を使用せず糖類でカロリーをそろえた甘酒風味飲料(190g)を同じく2週間毎日1本飲んだ場合にも同じ試験を行ってもらい、それぞれの試験日に疲労に関するアンケート調査(VAS※1、CFS※2、POMS2短縮版※3)を行いました、対象者10名は5名ずつの2グループに分け、酒粕と米麹で作った甘酒と対照飲料を飲む順番をグループごとに変えました。
※1:Visual Analog Scaleの略。最良の状態と最悪の状態を結ぶ10cmの線分にその時の状態がどの辺りなのかを自由に記述する疲労感評価紙。疲労感が軽減されるほど値が小さくなる。
※2:Chalder fatigue scaleの略。疲労に関する質問について4段階スコアで疲労の程度を評価する質問紙。
※3:「疲労ー無気力」「活気ー活力」「怒りー敵意」「混乱ー当惑」「抑うつー落ち込み」「緊張ー不安」「友好」の7つの気分尺度で所定の時間枠における気分状態を評価する質問紙。
VASによる疲労評価では、酒粕と米麹で作った甘酒を飲んだ時(酒粕・米麹甘酒群)には、対照飲料を飲んだ時(対照群)と比較して、計算課題とバイク運動を行った時の疲労解消の見込みが統計学的に有意に改善しました。また、計算課題後の精神的疲労感が軽減される傾向も見られました。(図1)
CFSの総合スコアやPOMS2短縮版の「疲労ー無気力」スコアについても、対照群と比較すると、酒粕・米麹甘酒群で改善する傾向が見られました。さらに、酒粕・米麹甘酒群では対照群に対してPOMS2短縮版の「友好」スコアが有意に改善し(図2)、試験開始時における「他人にあたたかくできる」という質問のスコアが有意に高くなりました。
今回の試験により、伝承的に期待されてきた日常生活における疲労感を軽減する効果が、酒粕と米麹で作った甘酒に期待できることが科学的に示されました。この精神的疲労感の軽減と疲労解消の見込みは、糖類を含む甘酒と甘酒風味飲料との比較によって得られたものであることから、甘酒にのみ含まれる酒粕と米麹由来の成分によるものであることが強く示唆されました。
また、疲労感軽減効果との関係性については明らかにされていませんが、酒粕と米麹で作った甘酒には、人づき合いにポジティブな気分にさせる効果が期待できることも示されました。
参考文献
1)小泉武夫.日農医誌61,835(2013)
2)山本晋平ら.New Food Industry50,43(2008)
3)農林水産省広報誌aff(あふ)12,14(2018)
4)Kawakami S et al.,FRAGRANCE J 44,43(2016)
5)伊藤真理子ら.薬理と治療46,1841(2018)
6)森貞夫ら.薬理と治療47,759(2019)
7)森貞夫ら.薬理と治療48,1187(2020)