寒さの増すこの時期、どうもお腹の調子がすぐれないと感じることはありませんか? その原因は腸にあるかもしれません。腸の働きを良くするにはどうすればよいのでしょうか。青江誠一郎先生に教えていただきました。
監修
大妻女子大学 家政学部 教授
青江 誠一郎 先生
大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。07年から現職。日本食物繊維学会常務理事。10年、大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞
大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。07年から現職。日本食物繊維学会常務理事。10年、大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞
なぜ寒くなると腸が動きにくくなるの?
気温が下がり体が冷えると、交感神経が優位になります。すると腸管の運動が抑えられ、血管が収縮して腸に向かう血液量も少なくなるため、腸の働きが悪くなると考えられます。この状態を「停滞腸」と言います。
停滞腸になると、消化・吸収・排泄がうまく行われなくなってしまうので、下腹部の張りや腹痛といった症状が出るようになります。また、不要な老廃物や毒素が体内に長期間留まることにより、ニキビや肌荒れ、肥満、体臭、便秘といった、さまざまなトラブルが起こるようになります。新陳代謝が衰えることで、細胞の活動や血流が滞り、さらなる冷えも招いてしまいます。
腸内環境を整えることで、腸の働き、そして血流が良くなり停滞腸が改善されれば、お腹の調子は良化します。また、作り出される毒素も少なくなるため、肌の状態や生活習慣病の改善にもつながると考えられます。
腸の働きを良くするためにできる対策って?
体の外から温めるのも効果的です。たとえば湯たんぽは眠るときに布団に入れるイメージですが、デスクワークの多い人は、ひざや太ももの上に置く習慣をつけることで、冷えを解消できます。
また、腰はお腹の神経が多く集まる場所ですので、寒い時は携帯カイロなどで、お腹はもちろん腰もしっかり温めてあげましょう。血流を促すために、30分程度のウォーキングを週に3~4回行うといった適度な運動も効果的です。入浴は、就寝の数時間前に、39℃前後のお湯に20分程度入るのが良いでしょう。
腸の働きを良くするには「朝食」が大事!
朝の光が刺激となり、脳から全身の組織に指令が発信されます。さらに食事がスイッチになって、胃腸の働きやホルモンの分泌、自律神経の調整などが起こり、体内時計がリセットされます。そのため、腸をしっかり動かすためには、朝食がとても重要なのです。
朝は副交感神経が優位に働いていて腸の活動が活発です。このタイミングに食事をとることで、腸で大きなぜん動運動が起こり、スムーズな排便が促されます。朝食を抜いてしまうと、朝のぜん動運動スイッチが入らず、排便が滞ります。すると腸の働きが停滞し、お腹の張りや便秘などの症状が出てしまうのです。
低体温になりがちな人には、温かい汁物が有効です。また、豆、雑穀、野菜の食物繊維を摂取するのが良いでしょう。豆からはレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)、雑穀の中でたとえば大麦からβグルカン、野菜からは不溶性食物繊維といったように、役割の異なる食物繊維を摂ることができるので、腸内細菌の活性化、腸の活動をサポートするという点で非常に効果的です。
また、食事誘発性体熱産生といって、食後にエネルギーが熱に変わるのですが、とくにたんぱく質の多い食事は熱産生量が多く効果的と言えます。乳製品や卵製品は、おすすめのたんぱく質素材です。
腸にうれしい2種類の食物繊維。その特長とは?
食物繊維は大きく分けると、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類。 それぞれ異なる特長があります。不溶性食物繊維は、胃や腸で水分を吸収して大きく膨らみます。それが腸管を刺激してぜん動運動を高めることで、便通を促し、便秘の解消に役立つのです。また、腸内通過時間を短縮させるため、腸内でつくられた毒素の排泄促進にも効果的です。野菜類、豆類や全粒穀物に多く含まれます。
一方、水溶性食物繊維は粘性があり、栄養素を包み込んで体内への吸収をゆるやかにします。そのため、急激な血糖値の上昇を抑えたり、血清コレステロールを正常化したりするという機能があります。多くの水溶性食物繊維は腸内細菌によって発酵を受け、腸内細菌の生態系を整えるとともに、そこでつくられた短鎖脂肪酸が体内のエネルギー代謝や脂質代謝にも影響します。水溶性食物繊維は、大麦、オート麦、ライ麦などの雑穀や、ゴボウなどの根菜類、昆布などに多く含まれます。不溶性食物繊維と水溶性食物繊維をバランス良く、複数の食材から摂ることが望ましいでしょう。
腸内環境を整えるためにおすすめの食べ物って?
不溶性食物繊維を摂取できる食べ物は、豆類や野菜類。水溶性食物繊維を摂取できる食べ物は、麦ごはん、根菜類や海藻類です。しょうが・大麦・とろろ昆布の組み合わせや、大麦・豆・海藻の組み合わせなどが、腸内環境を整えるためには効果的です。
厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では、豆類の摂取量目標を1日100gとしていますが、実際の摂取量は58.6g。野菜も目標350gに対して265.9gしかありません(平成28年国民健康・栄養調査結果)。
さまざまな種類の食物繊維と、さまざまな食品から摂るよう心がけましょう。 間食で食物繊維の多い食品を摂るのも有効です。 日本型薬膳に含まれる食材も参考にしてみると良いですね。