一般社団法人臨床栄養実践協会理事長
せんぽ東京高輪病院名誉栄養管理室長足立 香代子 先生
中京短期大学家政科食物栄養専攻卒業後、医療法人病院を経てせんぽ東京高輪病院(現・東京高輪病院)に勤務。2014年、一般社団法人臨床栄養実践協会を発足。長年の臨床経験を活かし、年間100回を超える講演会を通して管理栄養士の育成にも力を注ぐ。
著書は「太らない間食」(文響社)、「油はすごい。」(毎日新聞出版)など多数。
ヒトの三大栄養素は糖質、脂質、たんぱく質です。その中でもたんぱく質は、私たちの体の細胞や筋肉などを合成する重要な栄養素で、酵素やホルモンの材料として利用されるほか、体を守る免疫の働きを保つためにも必要とされます。また体内のエネルギーが不足しているときには、エネルギーとして使用されます。このように数多くの働きを担うたんぱく質が不足すると、さまざまな問題が起こる一方、多めに摂取してもほとんど問題が起こりません。このことからヒトにとって大切な栄養素であることがわかります。
たんぱく質にまつわる現状の課題として、高齢者で不足している人が多いことがあげられます。この理由は、高齢者はたんぱく質の合成よりも分解されていく量が多いため、そのバランスを満たすために多くのたんぱく質を摂取する必要があるにもかかわらず、その量をとれていないためです。その一方、高齢者以外の世代の人々は摂取量を満たしているように思われていますが、ここに落とし穴があります。実は20~30代の若い女性に、たんぱく質不足の人が多い可能性があることがわかってきたのです。
20~30代の女性のたんぱく質不足に大きく関係しているのが、多くの若い女性が望む“やせ願望”です。近年の「国民健康・栄養調査」の結果を見ると、BMI20以下の女性は20代で約半数を占め、30代でも約40%に上ります。BMI20以下の人は、エネルギー摂取量が少ないと考えられるため、たんぱく質がエネルギーとして使用され、不足することが考えられます。また、20~30代の女性のたんぱく質摂取量の平均値と中央値は推奨量を上回っていますが、私は摂取量が多い人と少ない人の差がかなり大きいと感じています。
こうした、若い女性のたんぱく質不足の背景にあるのが“朝食の欠食”です。朝食を欠食する人は20代の女性で、4人に1人に上ります。もともとやせ願望が強く、食事の量を少なくしようと意識していることに加えて、食事回数が減ることにより、たんぱく質の摂取量の不足につながっていることが予測されます。
たんぱく質を確実に補給するために、若い女性におすすめしたいのが「間食」です。従来の間食に適した食品は糖質を中心とするものが多かったのですが、現在ではたんぱく質を豊富に含むものが登場しています。さらに間食でたんぱく質を補給する大きなメリットがあります。それはたんぱく質を適度に含む間食をとることにより、腹持ちがよくなることです。このことにより過度な空腹の状態で夕食を迎えることがなくなるため、自然に夕食の摂取量が減ります。その結果1日の摂取カロリーが増えにくいことにより、健康的で太りにくいのです。このように間食を上手に取り入れることができれば、食生活をより健康的なものにしてくれるのです。
また、間食後の腹持ちが長く続くと、空腹による集中力の維持やイライラも予防することができます。間食にたんぱく質をとることは、まさに栄養学のしくみの合った食べ合わせなのです。