栄冠を求めて走り続ける 長距離ランナーたちの挑戦
競技であって競技でない駅伝の難しさ
正月から一本の襷(たすき)をつなぐドラマに日本中が熱狂する。大学駅伝競走は、いまや大学スポーツの枠を超えた一大イベントとなっている。大学生ランナーを含め、中高生たちにとっても憧れの舞台。約20kmの一区間に懸ける思いは、計り知れない。2019年大会で初優勝を飾った東海大学の両角速監督は、その駅伝について持論を持つ。
「若くて、気持ちも一番乗っている時期に注目される大会に向けて、一生懸命取り組むことは、選手の育成だけでなく、(駅伝は)人間をつくる意味でも重要なスポーツの一つかなと思います。陸上競技の裾野を広げる普及という点でも大きな役割を果たしています。そういった中で、駅伝は、個人競技とチーム競技が混在していて、切り替えが難しいところがあります。担当区間を走る点では、個人競技ですので、協調性という意味を理解できない子もいます。チームの一員として、競技するという視点で考えれば、協調性の必要性をきちんと理解してある意味、自己犠牲を払ってやってもらわないといけないということもあります。ただ単純にタイムとかで交代ができないので、残酷ですよね」
両角監督は選手たちの思いをしっかりくみ取り、準備を怠ることはない。最近は予選を免除されるシード校の常連になっているが、少し前までは違った。いまでも2012年度シーズンのことは忘れていない。2012年10月の予選会で12位(当時は9位まで本戦出場)となり、出場権を逃したのだ。連続出場は「40」で途切れた。指揮官は勝負の厳しさを痛感したが、それ以上に選手たちが悔しさをにじませるのを目の当たりにした。正月の大舞台を目指してきた当事者にしか分からないものがある。それ以来、東海大の選手寮には、予選落ちした思いを二度と忘れないようにある物が飾られていた。
負の歴史が染み込んだ黄色いジャンバーである。予選会で負けたチームは15人以上、安全確保や選手のコースを誘導する補助員を務めないといけない。その際に身につけたジャンバーがそれだ。
「チームでやっている競技なので、共通認識として、『お互いにそういうことを忘れないでやっていこうよ』という象徴です。今では、逆に優勝を目指すという部分においては、ネガティブな要素になってしまうことにもなりかねないので仕舞ってありますが、新入生には東海大学をクローズアップして、予選敗退をドキュメントにした特番の映像を見せたりして、勝負の厳しさを伝えています」
監督自身も常に危機感を持っている。初制覇を果たした2019年大会でさえ、「ひとつでも失敗すれば、予選会が待っている」と自らに言い聞かせていた。強い選手、強いチームを作るには、気の遠くなるような時間がかかるのに、落ちるのはあっという間というのを肌で感じているからだ。
中高生が憧れ、正月の風物詩となっている大会には絶対に出場し、良い結果を残すべきとして捉えている一方で、東海大の陸上競技部中・長距離ブロックの指導者として、一歩引いた視点でも大会を見ている。
「駅伝は、競技として見たときに国際大会の競技種目ではありません。これだけ日本で注目度が高く、多くの人の関心・興味を持っている大会ではありますが、競技としてその先に目指すものがないというのは珍しいことです。海外の人から見ると不思議に思われます」強化という側面を見た時に駅伝だけにフォーカスすることの危うさを感じているのである。
選手の個性を発揮できる場
東海大は駅伝だけではなく、国際大会の競技種目に採用されている800m、1500m、5000m、10000m、3000m障害などにも力を入れているのだ。2019年11月の全日本大学駅伝の3区で区間新の区間3位と好走した3年生の塩澤稀夕は、トラック競技でも力をつけたいという思いがあり、東海大を選んだ。
「駅伝には駅伝の魅力がありますが、競技者としての最終目標はそこではありません。将来はトラックで上を目指していきたいです」
東海大は春から夏にかけてのトラックシーズンになると、学生三大駅伝で力を発揮している選手たちが次から次に活躍する。今季、キャプテンを務めている4年生の館澤亨次は1500mで2017年、2018年のシニアも出場する日本陸上競技選手権大会で2連覇を達成。駅伝を走る選手としては、まさに異色の存在だろう。先輩たちの姿を見て、後輩たちも育っている。2019年9月の日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)では、1年生の飯澤千翔が1500mで優勝をさらってみせた。ゴールデンルーキーはまだ大学駅伝を走っていないものの、将来有望なランナーとして育成されているところだ。両角監督が目を向けるのは、国内に収まらない大きなステージ。
「学生たちには世界に出ていくチャンスがあります。大学駅伝は日本では有名ですが、世界からみると、狭い範囲のこと。駅伝以外の方向にも選手を導いていけるような取り組みをしています。選手は様々な個性を持っていますので、スピードといったことに対して、際立った能力を示すものもいれば、そうでもない選手もいて、スピード重視の魅力を出しつつも、色んな選手の個の対応ができるような指導の形が理想ですね」
普段の食事の取り方も指導の一環
両角監督は陸上競技の長距離種目を指導する立場として、選手たちの日々の生活にも目を配っている。レースでのパフォーマンスに大きく影響をすることを知っているからだ。規則正しい生活が競技につながってくる。選手寮では22時までに就寝し、朝5時半に起床して基本的に6時からトレーニングが始まる。合宿ではしっかり睡眠を取らせるためにスマートフォンまで取り上げる徹底ぶり。睡眠だけではない。
普段の食事の取り方も指導の一環である。かつて東海大は学生たちが食事当番を担い、自分たちで料理をつくっていた。大人数の食事をつくるため、当番の負担は大きく、その日の練習は免除されていた。両角監督は時代錯誤の慣例をなくし、就任2年目からは専門の業者を入れて、一から見直した。いまでは選手たちの体も変わってきている。2019年大学駅伝競走の5区で区間新の2位と快走した西田壮志は、東海大に入学してから食生活が大きく変化し、成長を遂げたひとりだ。
「大学1年生の最初の頃は、しっかりとした食事を取れていませんでした。よく食べていたものといえば、お菓子とかばかりで……。両角監督から『食事面での改善が必要だ』と言われて、合宿ではいつも一緒に食事を取っていました。僕は一生懸命に走っているだけでいいと思っていたんです。だけど、いまはそれが間違いだったとひしひしと感じています」
2年生になると、記録はぐんぐん伸びた。疲労は溜まりにくくなり、体の回復も早くなった。目に見えて表れたのはタイムだけではない。線が細かった体つきは見違えるようになった。いまでは入学時から体重が3kg増えて、46kgに(身長161cm)。
「走るための体をつくるためには、きちんとした食事を取らないといけません。私生活も大事です。陸上競技に向き合う姿勢が変わりました」
東海大では何から何まで管理しているわけではない。両角監督は選手たちの自主性を促すことも大切にしている。
「細かく管理をせず、自分でコントロールさせるようにしています。それが成長につながっていくと思っています」
東海大は練習からコンディション調整に気を配っており、水分補給だけではなく、森永製菓の「inゼリー」を必ず摂らせて栄養を補給している。両角監督は、その必要性を次のように話す。
「トレーニングする前と、トレーニングした後に、こういったエネルギーのリカバリーとしてやってきている習慣づけみたいなことが、すごく実際は大事であったり、ひょっとしたら怪我予防につながっている場合もあります。たんぱく質は筋肉をつける上で必要です。我々はウェイトトレーニングなどもやっていますが、スピードが高い練習をやると、筋繊維が破壊されますので、修復を促進するためにそれ(たんぱく質)を速やかに補給できるのが重要と捉えて考えていくと、inゼリーを摂っておいて良かったなということにもちろんなってきますよね。」
彼らが摂るinゼリーには2種類あり、トレーニングの前後で摂り分けている。ウエイトトレーニングやスピード練習を行うときは筋肉繊維が破壊されるため、タンパク質を含む「inゼリープロテイン」を摂取する。一方、カロリーを多く消費する距離走などの強度の高い練習前には「inゼリーエネルギー」を口に入れさせている。
4年生の西川雄一朗は東海大に入学してから日常的に「inゼリー」を摂るようになり、いまは欠かせないものになっているという。
「トレーニング前に『inゼリーエネルギー』を摂るようになり、練習が充実するようになったと思います。トレーニング後には『inゼリープロテイン』を忘れずに摂るようにしています」
エネルギーは速さのように数値で表すことは難しい。後半の粘りや強さを引き出すには、トレーニングだけでは限界がある。食事も補食も大切で、その中でinゼリーの果たす役割は大きい。
2連覇を目指すチームのその先にあるもの
コンディション調整を入念に進めながら、正月の大舞台で2連覇を成し遂げるため、万全の準備を整えている。2019年11月の全日本大学駅伝では西田、塩澤、名取燎太ら3年生たちの活躍もあり、見事に16年ぶりに優勝をさらった。三大駅伝の締めとなる大舞台でも、本命と言っていい。両角監督は前回大会の再現を誓う。
「1回だと、偶然勝つこともあるかもしれません。そう考えれば、もう1回勝つと東海大がやってきたことが証明されると思います」
ただ、長距離ランナーの育成に重きを置く指揮官の仕事は、大きな駅伝がひとつ終わってもまだまだ続く。
「ゴールであってもゴールではないところがあります。いまの4年生が卒業すると、また1年生が入ってくるのが大学スポーツ。勝ったからといって、これで終わりではありません。また始まったという感じですね。高校生のスカウトなどもありますし、そんなに勝ったことに浸れないですよ。挑戦や失敗なんかを繰り返しながら、チームとしても、選手としても、成長させていかないといけません。全員が選手として大会を走れる訳ではないのと、あとは4年間という限りある中での勝負になってくるので、いかに自分が目標とするゴール地点から逆算をして、今何をやらなければいけないのかということを理解し、その必要なことに取り組めるか計算できないとダメじゃないかなと…。それこそ社会に出て、分野が違っても、そういう考え方は、結構重要で、最初の年で求められることから逆算して、その年間の目標を設定し、さらにそこから逆算して今日は何をしなければならないかということに結びつけられるか考えると、今は良いトレーニングをしているのではないかと思いますね」
正月にひと区切りつけば、すぐに新チームがスタート。新キャプテンが決まり、新たな目標を立てる。選手たちの気持ちも切り替わる。3年生の塩澤は1月の駅伝で主要区間を走り、「区間賞を取って連覇に貢献したい」と口にした時点で、もう来年度にも目を向けていた。
「駅伝が終われば、春からはトラックで学生トップを目指していきたいです」
東海大の挑戦に終わりはない。
(取材・アスリートコラム編集部 文・杉園昌之)