アクティング・レンジャー/
希少種保護増殖等専門員
田中 詩織さん
アクティング・レンジャー/
希少種保護増殖等専門員
田中 詩織さん
絶滅危機から
イリオモテヤマネコを守れ!
地球上では、気候の変化や、
人間が引き起こす
さまざまな問題で数がへり、
いなくなってしまうかもしれない
生き物が増えているんだ。
田中さんは、そのおそれの高い
絶滅危惧種※の
イリオモテヤマネコを守っているよ。
※世界的には国際自然保護連合(IUCN)、日本では環境省などが、絶滅のおそれがある野生生物の表「レッドリスト」を作成。
その中で絶滅の危険度が高いものを「絶滅危惧種」としている。
イリオモテヤマネコは、その中でもごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いものとして、「絶滅危惧IA類」として掲載されている。
希少な生き物を守る「アクティング・レンジャー」として、沖縄の島の一つ、西表島にある西表野生生物保護センターでイリオモテヤマネコの保護に関わる仕事を担当しています。
イリオモテヤマネコは西表島だけにいる野生のネコで、その数は2008年の調べではおよそ100頭※。丸い耳先、耳のうらの白い斑点、目の周りの白いふちどりがイリオモテヤマネコの特徴です。顔つきも力強く野性的ですが、親子で歩いていたり、子ネコが木に登って遊んだりする姿はかわいらしいですよ。
主な仕事は、まず調査です。沿岸の低地部の約30ヵ所にカメラを置き、その地域に、どんなヤマネコがどのくらい住んでいるか、こどもを産んでいるかなどを調査しています。次にケガや病気をしたイリオモテヤマネコの救護。
そして、最も大きいのは交通事故対策です。交通事故はイリオモテヤマネコにとって一番の脅威です。島はもともとヤマネコが住んでいるおうち。道路は、その中にあとから人によって作られているため、ヤマネコが横断したり、急に道路に飛び出すこともあります。また、ヤマネコは主に夜によく活動するので、ドライバーからは見つけにくいこと、車のスピードの出し過ぎなどが事故の原因と考えられています。
そこで、事故を防ぐためイリオモテヤマネコの目撃情報を集め、飛び出してくる可能性が高い場所にヤマネコ注意の看板を立て、マップを作ったり、SNSなどでよびかけたりもしています。それと、イリオモテヤマネコのことを知って関心を持ってもらうための活動で、センターに来る人、住民、子どもたちへのお話などを行っています。
※決まった場所に行動圏(なわばりのようなもの)を持つ
定住個体の推定数です。
定住できないヤマネコは、放浪個体といいます。
樹木の上を歩くイリオモテヤマネコ
(環境省西表野生生物保護センター提供)
小さいころから自然や動物が好きでした。ただ、なりたいものが色々あり、ちがう方向へ行きかけたのですが、やっぱり自然や動物に関わりたいと思い、それができる大学へ進学。大学4年生から大学院生のころは西表島でカンムリワシを研究しました。その時の先生からこの仕事のことを教えてもらい、自然や動物を守りたいという気持ちから挑戦しました。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
交通事故対策はずっと苦労しています。道路の工夫なども行われていますが、毎年数件は事故があり、ほとんどは命を落としてしまいます。そんな中、2020年1~12月の交通事故がゼロに。約20年ぶりのことでした。
島はもともとイリオモテヤマネコのおうち。そこに道路を作った人間が気をつけてあげれば事故を減らすことができます。でも住んでいる人の生活も大切なので、どちらにとっても良い共生の方法を探しています。
また、今年、弱っていたところを発見されたイリオモテヤマネコを救護しました。私にとって初めて救護するヤマネコで、毎日の餌やりや掃除、様子の観察、全てがとても大変でした。野生に帰すため、人になれてしまわないように世話をしなければならかったからです。
でもその時に目の当たりにしたジャンプ力やスピードなど、野生のすごさは感動的でした。職員や島の獣医さん、専門家の皆さんにたくさん協力いただき、無事に、野生に帰すことができたので、本当によかったです。
交通事故を防ぐために、目撃情報をもとに運転注意マップをつくっている。
今はたくさんの人の前で話すことも多いですが、小さい時は人前で話すのは苦手で、一人で何かをしているのが好きでした。たとえばお絵かき。いつもかいていたのは動物、特にネコです。
動物が好きでしたが家では飼えず、近所のイヌやネコをかわいがっていました。
そういえば小学生の時、絶滅危惧種の動物の遺伝子で変身する女の子たちが地球を守るアニメを見て、絶滅危惧種に関心を持ちました。一番目立つ子がイリオモテヤマネコでした。まさか仕事でかかわるとは思いませんでしたね。
おやつでは、チョコボールのキャラメル味にはまったことがあり、銀のエンゼルが出たことがありました。
身近な自然や動物にちょっと目を向けてください。わたしたちの生活は自然にささえられていますが、自然にもかぎりがあります。自然も動物もいなくなると二度と会えません。
世界を悪くするのも、良くするのも人間で、小さなことの積み重ねで世界は良くなります。
西表島は2021年7月、世界遺産に登録されました。きれいなだけでなく、多様な生き物がくらしていることも評価されています。島を訪れるときは、多様な生き物たちのおうちにおじゃまする、という感覚をもってほしいと思います。
もしイリオモテヤマネコと遭遇した時は、近づきすぎない、エサをあげない、強い光を当てないこと。これらの約束が、ヤマネコを守ることにつながります。
遭遇時の約束を守ることが、イリオモテヤマネコを守ることにつながる。
プロフィール
東海大学で水生昆虫の研究室に所属。大学4年生から西表島にある大学の施設でカンムリワシの研究に取り組み、東海大学大学院人間環境学研究科に進学。2019年7月から今の仕事をスタート。