南極、北極を行く〝極地記者〟
氷の世界で地球環境
を取材
南極
越冬隊※に、
日本の女性記者で初めて同行取材。
その後も南極へ、さらに北極へも
何度も行っている中山さん。
「極地」で地球環境の不思議や
未来をよくするヒントをさぐり、
見たこと、知ったことを広く伝えているよ。
※南極観測隊で、長い冬をふくむ1年以上、南極に滞在するグループ。夏の約2ヵ月滞在するグループは「夏隊」とよぶ。
朝日新聞の社会部記者として、事件や事故をはじめ、社会の様々なことを取材して記事を書きます。紙の新聞だけでなく、ウェブサイトなどでも発信しています。
日本、世界の各地へ取材に行き、南極へは3回、北極も7回行きました。とった写真や動画を使い、その体験をテレビや学校のイベントでも伝えています。
南極では、記事を書くだけでなく、他の仕事もたくさんします。雪かきをしたり、荷物を運んだり、かたづけをしたり。隊の一員として、どんなことも力を合わせるのが当たり前だからです。
1回目の南極観測隊では、氷をほって72万年分の地球の気候変動を解明。2回目は隕石をさがして拾いました。基地以外は人間の手が入っていない南極には、自然な地球のすがたが残っているので、歴史を探るのにとても適した場所なのです。
3回目は、未来の移動式宇宙基地を組み立てることにも挑戦。宇宙の過酷な状況で建物を組み立て、寒さや強風にたえられるかの実験です。きびしい環境の南極だからこそできることです。また、自分ではドローンで鳥の目線の撮影もしました。
南極で観測活動中の中山由美さん。
たま岬にて
やってみたい、見てみたいという好奇心が小さい時から強かったです。
中学で英語を勉強し始めると、ちがう国の人と話せる楽しさに目覚め、大学ではドイツ語を勉強。留学した時、地球上に多様な文化を持つ多様な人がいることを実感しました。
世界中の国や地域で起きていること、知らなかったことを自分の目で見て、耳で聞いて伝えたいと考え、新聞記者になりました。
あと、なりたいものがたくさんあっても、全部はかなえられませんよね。でも、この仕事は、さまざまな人の話を聞くことで、その世界のことを感じられます。南極へ行くといったなかなかできない体験もできます。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
マイナス60度以下になる南極大陸の内陸で、2カ月半近く生活した時は大変でした。でも、そんな普通ではない状況に自分がいることを楽しんでもいました。
感動は毎日です。見わたすかぎり氷と雪と空ですが、光も雲も一瞬たりと同じではなく、うつり変わる自然の美しさを鮮やかに感じます。
太陽が一日中顔を出さない極夜の期間がすぎ、1ヵ月半ぶりに太陽が出る瞬間はふるえるほどでした。ゆらめくオーロラも、原理はわかっていてもあまりに幻想的で、まるで生きているように感じました。
あふれ返る情報に時間をうばわれがちな都市での生活に対し、南極での生活はシンプルで、自然と向き合ってくらすゆたかさがあります。
しかし、それは特別なことではなく、昔の人々はそうした暮らしをしていたはずです。
本が好きで、小学生の時は図書館で週2回、2冊ずつ借りて読んでいました。特に好きだったのは冒険ものやファンタジー。知らない世界にいどむストーリーにワクワクしました。
外で遊ぶことも多く、探検ごっこや基地作り、木登りをしたり、田んぼでザリガニをとったり。
苦手だったのは「みんなといっしょ」。みんなと同じ物を持ったり、着たりが心地悪かったですね。でも、中学・高校は自由な学校へ進み、のびのびできたことで活発になりました。
おやつは、ミルクキャラメルを食べていましたね。南極での保存食の中にも入っていて、なつかしく思いました。寒いとカロリーをたくさん使うので、カロリー補給にキャラメルやチョコレートが大活躍します。
大切なのは、まず知ること、そして考えてみることです。世の中には情報がたくさんありますが、何が良くて悪いかはそう簡単にはきめられません。例えば、自然エネルギーをふやそうと山の木を切って風車を置けば、そこにいた生き物がこまるかもしれません。情報をうのみにせず、自分で何が良いのかを考えることをして下さい。
それから、南極はどこの国のものでもないって知っていましたか?「南極条約※」で守られ、土地も資源もみんなのものです。だから争いはありません。世界中もそんな風にできないものでしょうか。
南極は簡単には行けない場所ですが、観測隊は、研究者、医者や料理人、大工など、色々な人が参加します。関心がある人は、得意なことをのばすと行けるかもしれませんよ。
※南極地域を平和目的で利用することや、領土権を主張しない ことなどの約束。日本、アメリカ、イギリス、フランスなど12ヵ国の間で1959年に決められ、61年に発効された。2019年12月時点で締約国は54。
プロフィール
1993年朝日新聞社入社。2003年11月~05年3月の第45次南極観測越冬隊、09年11月~10年3月の第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊、19年11月~21年2月の61次南極観測越冬隊に同行取材。北極でもパタゴニアやヒマラヤの氷河などを取材している。