サステナブルなお仕事No.15

畜産ちくさん学者

小林泰男やすおさん


畜産ちくさん学者

小林こばやし泰男やすおさん

「ウシのゲップ」を研究

地球を危機(きき)から救う一手に!?
地球温暖おんだん化を進める「温室効果ガス」。温室効果ガスとしてよく聞くのは二酸化炭素だけど、メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍なんだって! そんなメタンが多くふくまれるのがウシのゲップ。モ~大変と、小林先生はウシのゲップに含まれるメタンを減らす研究に取り組んでいるんだ。
Q1.
どんなお仕事クエッ?
人に飼われる家畜かちくの、特に草食動物のおなかの仕組みを調べています。15年ほど前から力を入れているのがウシのゲップの研究です。

ウシは草だけを食べて生きていけます。ウシはが4つあり、そのうちのひとつ、一番口に近くて大きい胃にたくさんいる微生物びせいぶつが、草を分解して色々な栄養に変えてくれるからです。でも、分解するときに胃の中でメタンが発生してしまい、それがゲップとして吐き出されてしまうのです。
ヒツジやヤギなど、ウシと同じ体の仕組みを持つ動物のゲップにふくまれるメタンは世界の温室効果ガスの4%をしめ、温暖化への影響えいきょうが問題になっています。とりわけ体の大きいウシはメタンの量が多く、それを減らそうとしているのです。

研究しているうちに、胃にいる微生物の種類はウシによって異なり、微生物の組み合わせによって発生するメタンの量がちがうことや、その組み合わせを変えることで、メタンが減らせることがわかってきました。
そこで、エサを工夫できないか調べていたのですが、ある会社との共同研究でカシューナッツのからに効果があることを発見。そのエキスを配合したエサをウシに食べてもらうと、ゲップのメタンを通常より20%減らすことができます。もちろん、ウシの健康に悪い影響えいきょうはありません。今は、さらなる削減さくげんに向けて研究を続けており、2050年までに80%削減を目指す政府のプロジェクトのリーダーも務めています。
使用ずみ衣料から国産バイオジェット燃料を作るプロジェクト
小林先生は、ウシのゲップに含まれるメタンを減らす研究をしている。
写真提供:小林泰男
航空会社は、二酸化炭素の排出が少ない燃料の開発に取り組んでいる。
カシューナッツの中身は食用としておなじみ。食べられない殻から抽出されるエキスに、メタンを減らす力がある。 写真提供:出光興産
航空会社は、二酸化炭素の排出が少ない燃料の開発に取り組んでいる。
カシューナッツの殻のエキスを配合したエサ。ウシが食べやすい味になっている。 写真提供:出光興産
Q2.
なぜ、そのお仕事を選んだクエッ?
京都府北部の山あいの小さな町で生まれ育ち、広い草原が続く北海道にあこがれて、北海道大学へ進学。せっかくなら北海道らしいことを学ぼうと畜産の分野を選び、その面白さから研究者の道へ進みました。
研究を続けてきて実感するのは、広い視点してんを持つことや人とのコミュニケーションがとても大事だということ。私は大学で教えてもいるのですが、学生には「できるだけ知らない土地へ行き、知らない人に会い、知らないものを見てくるように」と言っているんですよ。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
カシューナッツの殻でメタンが大きく減らせるとわかった時は、感動しましたね。まずは、試験管の中で微生物やメタンがどうなるかを見るのですが、すごい結果が出ました。学生に実験してもらったので、もしかして失敗したのかなと思い、いっしょに何度かやってみたところ同じ結果が出たのです。何十年に一つあるかないかの発見におどろき、うれしさがこみあげました。

試験管の実験の次は、エサに混ぜてウシに食べさせてみます。これが大変でした。ウシにも食べ物の好き嫌いがあるので、なかなか食べてくれず、ウシが好きなビーツ(サトウダイコン)のかすに混ぜ、やっと食べてもらえました。
Q4.
どんな子どもだったクエッ?
自然がいっぱいの田舎だったので、山で遊んだり、川で魚つりをしたり、外で遊ぶことが多かったです。ふだんのおやつはクリやクワの実など、山になっている木の実で、ミルクキャラメルやチョコレートは特別なおやつでした。
また、おじさんがウシを飼っていて、乗せてもらったこともあります。近所にもウシやヤギがいて、家でもニワトリやウサギなどを飼っていました。
母が教育熱心だったので勉強もしました。ただ、算数は苦手でした。
Q5.
未来の大人たちへ
ウシのゲップの研究は、温室効果ガスを減らすだけでなく、食料不足の問題にも役立ちます。なぜなら、メタンを発生させるためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーはエサから得られているからです。つまり、メタンが発生するたびに、エサのエネルギーを損失そんしつ(=むだ使い)しているのです。そのため、メタンを減らすとそれだけエサのエネルギーがミルクや肉にまわるようになり、エサの量が同じでも、たくさんミルクを出してくれるようになり、肉も増えて、より多くの人に届けられるようになるのです。

環境も食料も地球全体の問題。自分や自分の国だけではなく、全体で幸せになれることが重要です。みなさんにもぜひ、地球の問題を広い視点で調べ、考えてほしいと思います。
プロフィール
北海道大学大学院農学研究院特任教授。京都府綾部あやべ市生まれ。北海道大学大学院農学研究科博士前期課程修了しゅうりょう。三重大学を経て、2000年に母校の北海道大学へ。動物のおなかの仕組みを科学の目で調べる「動物機能栄養学」の研究に取り組んでいる
backbackpagetop