冒険起業家
植田紘栄志さん
冒険起業家
植田紘栄志さん
ゾウのウンチを紙にする
世界を変える一歩
ゾウのウンチを紙にする……って、何ソレー!? と思うよね。それは、植田さんの会社がインド南部の島国、スリランカで作っている「ぞうさんペーパー」のこと。野生のゾウと人間が仲良くくらせるように、という思いがこめられているんだって。
自然や動物と人間が共生するための商品を作っています。その代表が、スリランカで手作りしている「ぞうさんペーパー」です。ゾウのウンチを使ったリサイクルペーパーで、ノートやレターセット、カードなど、色々な商品になって、日本や世界の動物園などで売られています。
スリランカでは、ゾウはもともとジャングルに住んでいました。しかし、ジャングルでの開発が進むうちに、ゾウの居場所が少なくなってしまい、食べ物をさがして人里や町に迷いこむことが増えました。
慣れない環境でパニックを起こすゾウも少なくなく、人間に危害を加えたゾウが殺されてしまうことも。人間とゾウが敵同士のようになってしまったのです。
そこで思いついたのが、ゾウのウンチを材料にして商品と仕事を作ること。そうすれば、ゾウが大事なパートナーとなるため、仲良くくらしていきたいと思う人が増え、もっとうまく共存できるようになるのではと考えました。
工場のとなりにはゾウの
孤児院があり、親を殺されてしまった子ゾウなどがくらしている。そこで集めたウンチも「ゾウさんペーパー」に使っている。
写真提供:ミチコーポレーション
集めたウンチは24時間熱して殺菌し、繊維だけを取り出す。その後、古紙と混ぜて、日本の和紙のように手作業で1まい1まい漉いていく。繊維だけになった時点でまったくくさくなく、牧草のような香りのする、そぼくな風合いの紙になる。
写真提供:ミチコーポレーション
「ぞうさんペーパー」でつくられたノート。
写真提供:ミチコーポレーション
20さいの時に留学したオーストラリアで、起業などの経験をして、英語も話せるようになりました。日本に帰り、英語を生かせる貿易の会社で働いた後、自分の会社を作って機械の貿易をしていました。
そんなある日、たまたま街でこまっていたスリランカ人に1万円を貸したら、かれの結婚式に招待され、スリランカへ行きました。
ところが「大物ビジネスマン」と紹介され、引っこみがつかなくて現地で事業を始めることに。当時のスリランカは環境破壊が進み、ゴミ問題も深刻でした。そこで最初に始めたのはペットボトルのリサイクル業。そのうちに野生のゾウがおかれている状況を知り、「ぞうさんペーパー」を作るようになりました。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
会社の資金が銀行から借りられなかったことも、自然災害などで仕事がうまく進まなかったこともあります。でも、それほど苦労したとは思っていません。
一方で、家族にはいっぱい苦労をかけました。2人の子どもが小さい時、出張ばかりでいっしょにいる時間がほとんどなくて、さみしい思いをさせました。
感動するのは、一所けんめい考えて、現地の人たちと力を合わせてつくっているものが、だれかに喜んでもらえた時。新聞やテレビなどで活動が紹介されると、親が喜んでくれるのもうれしいですね。
とてもやんちゃで、いたずらばかりしていました。勉強は大きらい。人に決められたことをやるのもきらいでした。
「勉強していい大学へ入り、大きな会社へ入ったら安心だ」と、親にも先生にも言われましたが、自分には向いていないと感じて、小学生の時から、大きくなったら会社を作ろうと思っていました。
変わった子だったと思いますが、おやつはふつうです。ドーナツやホットケーキなど、母が作ってくれるものが多く、チョコボールやミルクキャラメルなども大好きでよく食べていました。
「ぞうさんペーパー」を作り始めたのは20年前。これで世の中を変えられるわけではないですが、続けることで少しずつ、ゾウと仲良くくらしたいと思う人が増えてきています。小さなことでも、行動するのが大事です。
あと、やりたいと思ったことは口に出すと、チャンスにつながりますよ。大人が「ムリだ」と言っても、その情報は古いかもしれない。つき進むことをおすすめします。感受性が豊かな若い時に経験したことは、一生役立つ“貯金”になります。そのためにも直感を大切にし、動いてほしいと思います。
プロフィール
高校卒業後、オーストラリアのビジネスカレッジに留学。東京で1997年に自分の会社、ミチコーポレーションを設立。スリランカでペットボトルリサイクルや「ぞうさんペーパー」の事業を立ち上げた。2011年に広島県の北広島町へ移住し、カフェや出版など、地域活性化ビジネスも行っている。