「ゴミがない世界」を目指す!
廃棄物から新たな素材を生み出す発明家
素材デザイナーって初耳! バナナの皮やコーヒー豆のかすなど、ふつうはゴミになるものを、何かの材料となる素材に生まれ変わらせるんだって。魔法使いみたいな村上さんは、この世界からゴミという存在をなくそうとしているんだ。
色々な廃棄物、つまり捨てられるものから新たな素材を開発し、その使い道も考えます。例えば、コーヒー豆のかすと廃棄される牛乳を混ぜて作った新素材、名づけて「カフェオレベース」を開発しました。コーヒーをいれる時、細かくした豆にお湯をかけてこすのですが、あとには豆の「かす」が残ります。ぼくは毎日コーヒーを飲むので、毎回捨てていたこのかすがもったいないと感じ、何か活用できる方法はないかと思ったことがきっかけです。
豆のかすを再利用する方法を調べ、実験を繰り返しました。そして、牛乳が接着剤の役割を果たしてくれることを知り、豆のかすを牛乳の接着剤で固めれば面白いものが作れると直感しました。「コーヒー+牛乳=まるでカフェオレだ!」と。そこで「カフェオレベース」と名前をつけて開発を進めました。この素材の材料となる豆のかすは、カフェで出たものを加熱殺菌し、乾燥させて使います。牛乳は給食などで余って廃棄されるものを主に活用しています。
カフェオレベースの材料となるコーヒー豆のかす(左)。加熱して殺菌し、乾燥させ、牛乳から作る接着剤を混ぜ合わせる。
カフェオレベースの使い道も考えました。コーヒー豆のかすが大量に出る場所といえばカフェですよね。せっかくならカフェで使ってもらえる商品にしようと、店内に置く花びんやプランター、ランプシェードを考案しました。豆のかすは大量のゴミになるものなので、お店にとっても処分の負担が減り、よろこんでもらっています。
カフェオレベースは豆のかすと牛乳、その他の材料も全て自然由来のものでできています。だからカフェオレベースで作ったプランターなら、植物を育てた後、丸ごと土に還すことができるんですよ。多くの人に廃棄物からこんなものができると知ってもらい、考え方や行動を変えるきっかけにしてほしいと考えています。
カフェオレベースはコーヒー豆の種類や煎り方などによって色が変わり、ちょっとしたでこぼこやヒビも味わいになる。乾燥させたコーヒーのかす1kgからランプシェードやプランターなら10個ほどができる。(©fujico)
廃棄される建築用の石こうボードを使う素材「resecco」の活用に向けた取り組みも進む。すべて身近にある、土に還る自然由来の材料だけを使う。
人が集まり、アップサイクル※を体験したり考えたりする「上回転研究所
」の所長も務める。
※捨てられるはずのものに新しい価値をつけて再生すること。対してリサイクルは原材料として再利用することをいう。
小さい頃から工作が好きで、ものづくりと芸術を学ぶために芸術大学へ進み、空間や家具などのデザインを勉強していました。楽しかったのですが、これは自分にしかできないことなのかなと考えていた時、やってきたコロナ禍
が転機
になりました。
ずっと家にいるようになると、生活の中でこんなにもたくさんのゴミを出していたんだと気づき、びっくりしたのです。そして、大量に資源を使って大量のゴミを出す、大量生産・大量廃棄の社会を変えたいと思ったことから、ものづくりとゴミをかけ合わせ、卒業制作でバナナの皮から作るレザー素材を開発しました。これこそが自分にしかできないことだと感じ、以来、素材デザイナーとして活動しています。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
素材の開発は実験のくり返し。9割は失敗ですが、やりたいことをやっているので苦労ではありません。また、失敗からちがうアイデアが生まれたりもします。ただ、前例がない、まだだれもやっていないことなので、何が正解かもわからない中でチャレンジし続けるのはちょっと大変です。でも、その先に感動が待っています。がんばった末に新しい素材ができた時、そしてそれが評価され、使いたいと言ってもらえた時、大きなよろこびが味わえます。
外で運動して遊ぶのと、ものづくりが好きでした。小学生の時は体育と図工が楽しみで、特に図工の時間はいきいきしていましたね。一人の時はいつも、ダンボールで家を作るなどして遊んでいました。当時は、はずかしがりの引っこみ思案な性格で、言葉にするより形にする方が自分に合っていたのかな。それが、ものづくりに向かった理由かもしれません。
親は、ぼくのやりたいことを、ダメと言わずにやらせてくれました。あきっぽかったので、すぐやめることも多かったのですが、おこらずに見守ってくれたので、のびのびとやりたいことができました。そのことと、もくもくと自分と向き合いながら何かを作る時間があったことが、今につながる力を育ててくれたと思います。
好きだったお菓子はチョコボール! 姉と協力してエンゼルを集め、おもちゃの缶詰をもらいました。何が入っているのかわからない宝探しのようなワクワクは、ものづくりのワクワクに近いものがありました。
ぼくが目標にしているのは、この世界からゴミそのものをなくすことです。魚や肉がのっている発砲スチロールトレーや、トイレットペーパーの芯も、工作の時は材料ですが、ゴミと思った瞬間にゴミになります。廃棄物を資源として使うことで、ゴミのない未来をつくりたいと思っています。
みなさんも、自分たちが生きたい未来を想像してみてください。それをかなえ、また、みんなが自分のやりたいことで生活できるようになるといいですよね。そのためにも、勇気を出してやりたいことをやりたいと言ってください。だれもやっていないことでも、まずやってみる、行動することできっと何かが変わります。
プロフィール
愛知県生まれ。名古屋芸術大学の卒業制作でバナナの皮からレザー素材を開発。フリーになり、2021年にコーヒー豆のかすと廃棄される牛乳で作った新素材「カフェオレベース」を開発。2022年から空間やイベントを企画する会社On-Coに所属し、「resecco」、廃棄パンを活用する「ペーぱん」などの素材開発に関わる。