サステナブルなお仕事No.47

「東京チェンソーズ」代表/林業家

青木あおき亮輔りょうすけさん

「東京チェンソーズ」代表/林業家

青木あおき亮輔りょうすけさん

枝や根っこもムダにしない
林業で森林を未来へつなぐ
会社の名前は「東京チェンソーズ」。
音楽バンド?と思ったら、林業の会社だって。青木さんの仕事場は“東京の森”。
東京都の檜原村(ひのはらむら)に広がる森林で、森の力を生かし、林業を持続可能(かのう)にすることを目指しているよ。
Q1.
どんなお仕事クエッ?
山に苗木(なえぎ)を植え、大きく育った木を切り出し、木材として売るのが林業の仕事です。木が大きく育つには何十年もの時間がかかり、手入れが欠かせません。いらない(えだ)を切る「枝打ち」や、木が密集(みっしゅう)しないように木の本数を調整する「間伐(かんばつ)」といった作業があります。苗木が健やかに育つためには、まわりに生えた雑草(ざっそう)を取りのぞく「下()り」も大切です。私たちの森から出荷された木材は、家の建築(けんちく)やオフィスの内装(ないそう)、家具などに使われています。

私たちは「森と街の共生※1」をテーマに、森林や木の価値(かち)を最大にすることに力を入れています。その一つが「1本まるごと販売(はんばい)」です。ふつうは()てられてしまう根っこや切り(かぶ)、葉っぱや枝も活用します。大事に育てた木ですから、なるべく木1本の全部を捨てることなく使いたい。切り株をテーブルに加工したり、枝でおもちゃを作ったり。木は1本1本で形や大きさが(ちが)うので、それぞれの個性(こせい)を生かして、価値があるものに生まれ変わるよう知恵(ちえ)をしぼっています。

※1 ともに同じ場所で生活すること、いっしょに生きること

森林は、雨水をたくわえ、山くずれを(ふせ)ぐ、二酸化炭素(にさんかたんそ)吸収(きゅうしゅう)して地球温暖化(おんだんか)をおさえるなど、社会にとっても多くの役割(やくわり)を持っています。人がほっとできる場所でもあり、野生動物のすみかでもあります。しかし、その役割を(たも)つには手入れが必要です。私たちの仕事は、森林を守りながら木材を生産する重要な仕事です。林業を未来へつないでいこうとしています。
会社名の「東京チェンソーズ」は、林業を若(わか)い人にも親しみあるものにしようと考えた。会社が保有(ほゆう)する森と管理する周辺の森林を合わせると広さは約30ha(ヘクタール)※2で、スギやヒノキを中心に約3万本の木が育っている。※2 1ヘクタールは100メートル四方の広さ
会社名の「東京チェンソーズ」は、林業を(わか)い人にも親しみあるものにしようと考えた。会社が保有(ほゆう)する森林と管理する周辺の森林を合わせると広さは約30ha(ヘクタール)※2で、スギやヒノキを中心に約3万本の木が育っている。

※2 1ヘクタールは100メートル四方の広さ
東京チェンソーズでは2015年に苗木の育成プロジェクト「東京美林倶楽部(くらぶ)」をスタート。一般(いっぱん)の人に会員になってもらい、下草刈りなどの山仕事を一緒(いっしょ)にしながら美しい森を未来に残す取り組みだ。<2024年9月現在(げんざい)、新しい会員の募集(ぼしゅう)は停止(ていし)しています>
東京チェンソーズでは2015年に苗木の育成プロジェクト「東京美林倶楽部(くらぶ)」をスタート。一般(いっぱん)の人に会員になってもらい、下草刈りなどの山仕事を一緒(いっしょ)にしながら美しい森を未来に残す取り組みだ。<2024年9月現在(げんざい)、新しい会員の募集(ぼしゅう)停止(ていし)しています>
東京チェンソーズが開発したオリジナルの「山男のガチャ」。枝や幹(みき)を使ったおもちゃ、マグネット、コースターなどの雑貨(ざっか)が入っている。
東京チェンソーズが開発したオリジナルの「山男のガチャ」。枝や(みき)を使ったおもちゃ、マグネット、コースターなどの雑貨(ざっか)が入っている。
Q2.
なぜ、そのお仕事を選んだクエッ?
小さい(ころ)から自然が好きで、自然の役に立つ仕事がしたいと思ったことが理由の一つです。中学生の時に冒険(ぼうけん)家の植村直己(うえむらなおみ)さん※3映画(えいが)を観て、大人になっても自然の中で冒険している人がいると知って、植村さんの姿(すがた)にあこがれもありました。

※3 1970年に日本人で初めて世界最高峰(さいこうほう)のエベレスト(8848メートル)に登頂(とうちょう)した冒険家

大学では林学科で林業を学び、探検(たんけん)部に入りました。日本全国で川下りや山登りをして、海外でもモンゴルで洞窟(どうくつ)(さが)したり、チベットでメコン川を下ったり、探検に熱中しました。そこで気づいたのが、モンゴルもチベットも、山に木が少ないこと。特にチベットの山は、木が切られてハゲ山になっていて、雨がふると川から水があふれていました。

一方、日本はどうでしょうか。国土の7(わり)が美しい森林に(おお)われています。海外での経験(けいけん)が、日本の森林のすばらしさを再認識(さいにんしき)させてくれました。そんな日本も高齢化(こうれいか)で、林業をやる人が()っていて、それなら自分が役に立てるのではないかと思って林業を選びました。森林組合※4で5年働いた後、もっと多くの若い人が林業の世界に入ってこられるような会社をつくりたいと思い、仲間4人と東京チェンソーズを立ち上げました。

※4 森林の所有者が、森林の保全(ほぜん)や林業に関する事業を共同で行うために(
もう
)
けた組織(そしき)
大自然が仕事場の林業は、高齢化で働く人の減少(げんしょう)が課題。青木さんは「若者(わかもの)が安心して働ける林業」をめざして東京チェンソーズをつくった。
大自然が仕事場の林業は、高齢化で働く人の減少(げんしょう)が課題。青木さんは「若者(わかもの)が安心して働ける林業」をめざして東京チェンソーズをつくった。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
「1本まるごと販売」を始めた時、木や根っこがなかなか売れず、結局は粉々(こなごな)(くだ)いて山にもどしたこともありました。新しい価値を生み出す(むずか)しさを実感しました。そんな苦労があったので、1本まるごとの価値をお客さんが(みと)めてくれて、(よろこ)んで買ってもらえたときはうれしくて、これからの時代の林業の形をつかんだ気もしました。新しい価値を生み出すことは、探検と()ています。だれもやっていないことを目標に、実現(じつげん)の方法を考え、アクシデントを乗り()えていくのは同じで、毎日探検するような気持ちで取り組んでいます。
「1本まるごと販売」の取り組みで作った遊具「ひっつきむしと東京の森 丸太」。穴(あな)にかくれた木製(もくせい)のイモムシを磁石(じしゃく)つきの棒(ぼう)でひっぱり出して遊ぶ。
「1本まるごと販売」の取り組みで作った遊具「ひっつきむしと東京の森 丸太」。(あな)にかくれた木製(もくせい)のイモムシを磁石(じしゃく)つきの(ぼう)でひっぱり出して遊ぶ。
Q4.
どんな子どもだったクエッ?
小学生時代を過ごした大阪では、家の近所でフナやナマズをとったり、田んぼへザリガニをとりに行ったり、よく外で遊んでいました。12才で千葉へ引っ越してからも、釣りや山登りをして遊び、自転車で県内を一周したこともあります。夏休みは岩手県の母の実家ですごし、山も川もある(ゆた)かな自然の中で思い切り遊んだ経験が、今につながっています。勉強はあまり好きではなかったですが、地理や歴史(れきし)は別で、地図を見てそこにある世界を想像(そうぞう)していました。お菓子でよく食べたのはチョコボール。遠足にも必ず持って行きました。
Q5.
未来の大人たちへ
日本は先進国でありながら森林大国で、木の文化の国です。山と街が近いので森と人の共生に向いていて、大きな可能性を持っています。国内の人工林※5では今、樹齢(じゅれい)60~70年の木々が多く、みなさんが大人になるころには100年を()え、木の資源(しげん)がより豊かになるでしょう。森林と人の関わりがもっと近くなり、森林や木をあつかう仕事も注目されてくると思っています。森林や林業に目を向けて、親しんでもらえるとうれしいです。

※5 日本の森林には天然林と人工林がある。天然林は自然に木が生えている森林で、人工林は人間が苗木を植えて育てた木でできた森林のこと
プロフィール
大阪府生まれ。東京農業大学農学部林学科卒業。学生時代は探検部で活動。1年間の会社勤務(きんむ)()て、2001年に森林組合で働き始める。2006年に仲間と共に独立(どくりつ)し、「東京チェンソーズ」を設立(せつりつ)。2023年5月より檜原村議会議員を(つと)める。
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