農業生産法人フルージック代表
渡辺祥二さん
農業生産法人フルージック代表
渡辺祥二さん
「山羊さん除草隊」出動!
環境にやさしい方法で、緑地を守りたい
かわいいヤギたちが、そこらじゅうで草をむしゃむしゃ食べています。実はこれ、「山羊さん除草隊」が仕事をしているところなんだ。渡辺さんと55匹の仲間たちが、人にも環境にもやさしい方法で緑地を守っているんだよ。
「山羊さん除草隊」のヤギたちといっしょに、公園や広場、工場の緑地など、持ち主から依頼のあった場所の除草をしています。
ヤギたちはふだん、岐阜県美濃加茂市のぎふ清流里山公園どうぶつエリアで過ごしています。ヤギたちは仕事が大好きなので、除草場所へ行くトラックがむかえに来ると、自分たちから乗りこみます。現地に着いたら元気よくかけ出して、草を食べてくれます。かたくておいしくない草は、私たち人間が刈ります。
急な斜面や太陽光発電パネルの下は機械を使いにくくて、人間の力では手入れが大変です。でもヤギはお手のもの。スイスイと登っていって、きれいに食べてくれます。
人間では除草に手間がかかる斜面などでも草を食べ、地面をふみ固めてくれる。活動エリアは市内とその周りが中心だが、ときには横浜まで出張することも。自治体や企業などからの依頼は増え続け、いまは年間約20ヵ所に出動している。
人間が除草した場合、刈った草を集めたり、燃やしたりしなければなりません。でもヤギたちが食べてくれれば、その必要がありません。そのため、除草にかかる費用は安くなります。燃やさないから二酸化炭素も発生しません。
さらに、ヤギのフンを肥料にして作物を育てることで、小さな循環型農業 ※1も生み出しています。
例えば地元の加茂農林高校の生徒と、フンを肥料にしたサツマイモを栽培し、それを原料に「ヤギさんのてみやげ」と名付けたお菓子を作っています。フン肥料は茶畑にも使っていて、そこでとれた茶葉は紅茶に加工して売っています。
※1 化学肥料や農薬をできるだけ使わずに、捨てられるものを肥料として活用する農業。
ヤギのフンから作った肥料で茶葉も育てている。ひと手間を大切にした有機栽培で、循環型農業を実現している。
加茂農林高校食品科学科の課外研究にも協力。「ヤギさんの置き土産から手土産を作ろう」プロジェクトで、置き土産(=フン)の肥料で栽培したサツマイモを原料に、クッキーやドーナッツなど「ヤギさんのてみやげ」と名付けたお菓子を開発している。
家業の建設土木会社を手伝うため建設技師※2の仕事をしていたのですが、新しいことをしたくて、起業して農家になりました。「山羊さん除草隊」は、仲間の一言がきっかけでした。「ヤギがいたら畑の雑草を食べてくれて楽になるし、仕事が楽しくなるのに」と。面白そうだなと思い、まず2頭からスタート。自分たちの畑の中だけで始めてみました。
※2 建設工事の現場などで、工程や品質、安全などを管理し、事故なく予定通りに建物を完成させる仕事。
やがて、戦後まもないころはヤギがたくさん飼われていて、除草に役立っていたと知りました。それが里山を守ることにもつながっていたそうです。そこで、この「ヤギの除草」を現代的に工夫して、事業としてやってみようと思い立ちました。
建設技師だったころ、動物たちのすみかをうばう開発の仕事に痛みを感じていました。だから今はせめて、少しでも動物と人間の共生に役立ちたいと考えています。
メンバーはベテランから子ヤギまで55匹。岐阜大学の除草効果研究に協力し、利益の一部を寄付している。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
好きなことをやっているので、苦労と思うことはありません。ただ、周りの人、特に家族には苦労をかけているかなあ。
ヤギは人間より寿命が短く、お別れする時はやっぱり悲しい。助けられる命があったのではと思うこともあります。
除草中、心地よい風を受けて気持ちよさそうなヤギを見ると、こっちも幸せになります。ヤギと人間の子どもたちのふれあい事業もやっているのですが、そのときの子どもたちの笑顔を見るのもいいものです。
ヤギは大切な仲間。子ヤギのころから体調をしっかり管理する。
渡辺さんは「効率第一になりがちな家畜動物との関わり方を考え直したい」と話す。
田畑にかこまれて育ち、いつも外で遊んでいました。泥だんごを投げ合ったり野球をしたり、秘密基地を作ったり。
好きだったお菓子はチョコボールとミルクキャラメル。遠足には欠かせませんでした。最近は「大粒ラムネ」。運転中に食べるなど、いまでもお世話になっています。
小学生のころ、先生から「物事には正面だけでなく裏の面がある」という言葉を聞いて、いつも裏の面を考えるようになりました。自分の目で確かめないと気がすまなくて、おかしいと思うと大人にもくってかかる子でした。
進学など決まったレールから外れても、それは失敗ではありません。人生はいつでもやり直しできることを知っていてほしい。情報はSNSにたよらず、自分で見て感じることを大切にしてください。
サステナブルな世界を目指すうえでも大切なのは、自分の足で立つことです。「山羊さん除草隊」はきちんと利益を出し、自分たちの力で続けています。この自立の意識さえ持っていれば、やりたいことは自然に見つかります。
プロフィール
岐阜県生まれ。高校生のとき1年間アメリカへ留学。明治大学卒業。大手住宅メーカーに勤務後、家業の建設土木会社を手伝うため地元へ戻る。2005年に農業法人を設立、2011年に「山羊さん除草隊」をスタートさせた。