サステナブルなお仕事No.47

農業生産法人フルージック代表

渡辺わたなべ祥二しょうじさん

農業生産法人フルージック代表

渡辺わたなべ祥二しょうじさん

山羊(やぎ)さん除草隊(じょそうたい)」出動!
環境(かんきょう)にやさしい方法で、緑地を守りたい
かわいいヤギたちが、そこらじゅうで草をむしゃむしゃ食べています。実はこれ、「山羊さん除草隊」が仕事をしているところなんだ。渡辺さんと55(ひき)の仲間たちが、人にも環境にもやさしい方法で緑地を守っているんだよ。
Q1.
どんなお仕事クエッ?
「山羊さん除草隊」のヤギたちといっしょに、公園や広場、工場の緑地など、持ち主から依頼(いらい)のあった場所の除草をしています。

ヤギたちはふだん、岐阜県美濃加茂市(みのかもし)のぎふ清流里山公園どうぶつエリアで()ごしています。ヤギたちは仕事が大好きなので、除草場所へ行くトラックがむかえに来ると、自分たちから乗りこみます。現地(げんち)に着いたら元気よくかけ出して、草を食べてくれます。かたくておいしくない草は、私たち人間が()ります。

急な斜面(しゃめん)や太陽光発電パネルの下は機械を使いにくくて、人間の力では手入れが大変です。でもヤギはお手のもの。スイスイと登っていって、きれいに食べてくれます。
人間では除草に手間がかかる斜面などでも草を食べ、地面をふみ固めてくれる。活動エリアは市内とその周りが中心だが、ときには横浜(よこはま)まで出張することも。自治体や企業(きぎょう)などからの依頼(いらい)は増(ふ)え続け、いまは年間約20ヵ所に出動している。
人間では除草に手間がかかる斜面などでも草を食べ、地面をふみ固めてくれる。活動エリアは市内とその周りが中心だが、ときには横浜(よこはま)まで出張(しゅっちょう)することも。自治体や企業(きぎょう)などからの依頼(いらい)()え続け、いまは年間約20ヵ所に出動している。
人間が除草した場合、刈った草を集めたり、()やしたりしなければなりません。でもヤギたちが食べてくれれば、その必要がありません。そのため、除草にかかる費用(ひよう)は安くなります。燃やさないから二酸化(にさんか)炭素も発生しません。

さらに、ヤギのフンを肥料(ひりょう)にして作物を育てることで、小さな循環型(じゅんかんがた)農業 ※1も生み出しています。

例えば地元の加茂農林高校の生徒と、フンを肥料にしたサツマイモを栽培(さいばい)し、それを原料に「ヤギさんのてみやげ」と名付けたお菓子を作っています。フン肥料は茶畑にも使っていて、そこでとれた茶葉は紅茶(こうちゃ)に加工して売っています。

※1 化学肥料や農薬をできるだけ使わずに、()てられるものを肥料として活用する農業。
ヤギのフンから作った肥料で茶葉も育てている。ひと手間を大切にした有機栽培で、循環型農業を実現している。
ヤギのフンから作った肥料で茶葉も育てている。ひと手間を大切にした有機栽培で、循環型農業を実現している。
加茂農林高校食品科学科の課外研究にも協力。「ヤギさんの置き土産から手土産を作ろう」プロジェクトで、置き土産(=フン)の肥料で栽培したサツマイモを原料に、クッキーやドーナッツなど「ヤギさんのてみやげ」と名付けたお菓子を開発している。
加茂農林高校食品科学科の課外研究にも協力。「ヤギさんの置き土産から手土産を作ろう」プロジェクトで、置き土産(=フン)の肥料で栽培したサツマイモを原料に、クッキーやドーナッツなど「ヤギさんのてみやげ」と名付けたお菓子を開発している。
Q2.
なぜ、そのお仕事を選んだクエッ?
家業の建設(けんせつ)土木会社を手伝うため建設技師(けんせつぎし)※2の仕事をしていたのですが、新しいことをしたくて、起業して農家になりました。「山羊さん除草隊」は、仲間の一言がきっかけでした。「ヤギがいたら畑の雑草(ざっそう)を食べてくれて楽になるし、仕事が楽しくなるのに」と。面白そうだなと思い、まず2頭からスタート。自分たちの畑の中だけで始めてみました。

※2 建設工事の現場などで、工程(こうてい)品質(ひんしつ)、安全などを管理し、事故(じこ)なく予定通りに建物を完成させる仕事。

やがて、戦後まもないころはヤギがたくさん()われていて、除草に役立っていたと知りました。それが里山を守ることにもつながっていたそうです。そこで、この「ヤギの除草」を現代(げんだい)的に工夫して、事業としてやってみようと思い立ちました。

建設技師だったころ、動物たちのすみかをうばう開発の仕事に(いた)みを感じていました。だから今はせめて、少しでも動物と人間の共生に役立ちたいと考えています。
メンバーはベテランから子ヤギまで55匹。岐阜大学の除草効果(こうか)研究に協力し、利益(りえき)の一部を寄付(きふ)している。
メンバーはベテランから子ヤギまで55匹。岐阜大学の除草効果(こうか)研究に協力し、利益(りえき)の一部を寄付(きふ)している。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
好きなことをやっているので、苦労と思うことはありません。ただ、周りの人、特に家族には苦労をかけているかなあ。

ヤギは人間より寿命(じゅみょう)が短く、お別れする時はやっぱり悲しい。助けられる命があったのではと思うこともあります。

除草中、心地よい風を受けて気持ちよさそうなヤギを見ると、こっちも幸せになります。ヤギと人間の子どもたちのふれあい事業もやっているのですが、そのときの子どもたちの笑顔を見るのもいいものです。
ヤギは大切な仲間。子ヤギのころから体調をしっかり管理する。渡辺さんは「効率(こうりつ)第一になりがちな家畜(かちく)動物との関わり方を考え直したい」と話す。
ヤギは大切な仲間。子ヤギのころから体調をしっかり管理する。
渡辺さんは「効率(こうりつ)第一になりがちな家畜(かちく)動物との関わり方を考え直したい」と話す。
Q4.
どんな子どもだったクエッ?
田畑にかこまれて育ち、いつも外で遊んでいました。(どろ)だんごを投げ合ったり野球をしたり、秘密基地(ひみつきち)を作ったり。

好きだったお菓子はチョコボールとミルクキャラメル。遠足には欠かせませんでした。最近は「大(つぶ)ラムネ」。運転中に食べるなど、いまでもお世話になっています。

小学生のころ、先生から「物事には正面だけでなく(うら)の面がある」という言葉を聞いて、いつも裏の面を考えるようになりました。自分の目で(たし)かめないと気がすまなくて、おかしいと思うと大人にもくってかかる子でした。
Q5.
未来の大人たちへ
進学など決まったレールから外れても、それは失敗ではありません。人生はいつでもやり直しできることを知っていてほしい。情報(じょうほう)はSNSにたよらず、自分で見て感じることを大切にしてください。

サステナブルな世界を目指すうえでも大切なのは、自分の足で立つことです。「山羊さん除草隊」はきちんと利益(りえき)を出し、自分たちの力で続けています。この自立の意識さえ持っていれば、やりたいことは自然に見つかります。
プロフィール
岐阜県生まれ。高校生のとき1年間アメリカへ留学(りゅうがく)。明治大学卒業。大手住宅(じゅうたく)メーカーに勤務(きんむ)後、家業の建設土木会社を手伝うため地元へ(もど)る。2005年に農業法人を設立(せつりつ)、2011年に「山羊さん除草隊」をスタートさせた。
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