漁師
富永邦彦さん
漁師
富永邦彦さん
注文を受けて漁に出る
豊かな海を守る漁業
ショック! 魚がどんどんとれなくなって、お寿司が食べられなくなるかもしれないって…
そんな中で注目されているのが、富永さんが始めた「受注漁」という新しい漁のスタイル。
おいしい魚と豊かな海を守り、持続可能な漁業を目指しているよ。
瀬戸内海に面した岡山県玉野市で漁師をしています。漁師というと、とれるだけたくさんの魚をとって、市場に出荷していると思われるかもしれませんが、私の漁は違います。お客さんからインターネットやSNSで注文を受け、その分だけ魚をとります。これなら魚を必要以上にとり過ぎることはありません。また、とる魚の量が決まっているから、漁の時間も短くできるので、船の燃料を減らし、二酸化炭素の削減にもつながっています。注文を受けた魚だけをとる漁なので「受注漁」と呼んでいます。
日本は島国で海に囲まれていますが、海の中の環境が大きく変化していると感じています。昔はたくさんとれた魚がとれなくなってきていて、このままだと「2050年には食用魚がいなくなる」とも言われています。私が漁に出ている海でもアナゴやシャコ、車エビなどが急激にとれなくなりました。その原因の一つが乱獲※1です。地球温暖化による海水温度の上昇の影響もあるでしょう。また、「魚のゆりかご」と呼ばれる藻場※2も減り、魚が育つ場所もなくなってきています。すぐには解決できない問題もありますが、一人の漁師として未来のためにできることがあると思っています。私の取り組みに関心を持ってくれる漁師さんも増えてきていて、将来は漁師になりたいという中学生や高校生からも問い合わせをもらうことも。良い方向に向かっているのではと感じます。
※1 魚や鳥などをむやみにとること
※2 海の中で海藻や海草が茂っている場所
妻の美保さん(左)と邦彦さん。「邦美丸」という船で4月~9月は底引き網漁、
10月~3月は海苔を養殖している。
邦美丸では魚をとりすぎないことに加え、成長していない魚はとらないようにするため、小さい魚がすりぬけるよう目の大きい網を使って漁をしている。
妻の美保の家が代々漁師で、なんだか漁師ってかっこいいなと思い、義理のお父さんに弟子入りしました。テレビで観るような勇ましい姿をイメージしていたのですが、やってみたら大変でした。漁師を始めた当時は早朝に漁に出て、帰宅するのは夜。天気が悪くなれば漁に出られないから、漁に出た日はとれるだけ魚をとっていました。家族とゆっくり過ごす時間もなく、一度は漁師をやめて会社で働きました。
それでも「これでいいのか」と思い直し、漁師に再トライしました。いつまでも漁師として元気に働く方法を夫婦で考え、注文を受けて漁に出る「受注漁」の方法を試してみることにしました。すると、働く時間は減っても収入は安定し、さらに魚の乱獲を防ぐこともできるようになり、今の漁のスタイルになりました。
「あなたの専属漁師」をコンセプトに、個人やお店から年間1000件ほども注文が入る。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
魚は今日とれても、明日とれるかはわかりません。思うようにならない自然が相手という点ではずっと苦労しています。でも、だからこそ、ねらった通りにとれた時はうれしいし、達成感があります。また、お客さんと直接やり取りをしているので、「ごちそうさま」「ありがとう」「おいしかった」という言葉をもらうと、生きるために必要な食を支え、人によろこばれるすばらしい仕事だと実感します。海では網を入れる時間が5分ずれるだけでも魚はとれません。知恵や経験、勘をフル活用するのが漁師の仕事です。やりがいは大きいです。
5人きょうだいの2番目です。スポーツが好きで、小学生の時の夢は野球選手。中学でボクシングを始めてからは世界チャンピオンになりたいと思っていました。体育は得意だったけれど、勉強は苦手でした。小さい時から丸ぼうずで日に焼けていたので、チョコボールと呼ばれたり、野球の応援ではCMの「モリナガ♪」のリズムで「トミナガ♪」と歌われたり、森永製菓さんにはとても親しみがあります。お菓子で一番好きだったのはチョコボール<キャラメル>です。実は、子どものころは魚がきらいで、さわることもできませんでした。岡山へ来て食べられるようになったのですが、それは新鮮でおいしいから。魚を送っているお客さんからも「子どもが魚を食べられるようになった」という、うれしい声をもらっています。
このまま魚が減っていけば、お寿司が食べられなくなるかもしれません。そうならないために今できることがあります。お寿司を食べる時は、同じ魚だけではなく、できれば5種類くらい違う魚のネタも食べてみてください。他にも好きな魚が見つかるかもしれません。みんなが好きな魚だけを食べると、漁師はその魚だけをとるようになり、自然界のバランスがくずれ、水産資源の枯渇につながります。色々な魚を食べることで、バランスが保たれます。
また、海にゴミが増えています。将来は魚よりもゴミの方が多くなるのではとも言われています。海は街とつながっていて、落ちているゴミは、最後は川から海に流れます。ポイ捨てをしないことやゴミを拾うことも、海の環境を守ることにつながります。
プロフィール
大阪府生まれ。会社員を経て2008年に岡山県へ移住し、漁師修行を始める。2年ほどで一度やめ、数年間会社勤めをした後、再び漁師の道へ。持続可能な漁師のあり方を模索し、2022年に「受注漁」を確立。最近、海の環境について子どもたちに伝える活動も始めた。