雪屋媚山商店 大番頭
本間弘達さん
雪屋媚山商店 大番頭
森良平さん
“やっかいもの”の雪を活用
地球にやさしい「雪冷房」
雪だるまをつくったり、雪合戦したり、雪がふると楽しいことがいっぱい。でも、大雪がふると困ることも多いよね。雪国ではやっかいものの雪を、夏に冷房として活用する「雪冷房」の会社を営む本間さん。30年前から雪を利用する研究を続けていて、「雪博士」と呼ばれているよ。
雪冷房を知っていますか?冬にふった雪を取っておいて、夏に冷房として使う技術です。北海道美唄市にある私の会社では、この雪冷房の設計から設置までを引き受けています。これまで手がけた中で一番大きな施設は、北海道の新千歳空港。冬に滑走路にふった雪をためておき、夏に空港のビルの冷房として活用しています。そのほか農作物の保存施設や福祉施設など、これまで40カ所以上で雪冷房の導入にかかわってきました。
日本の面積の約51%は雪がたくさんふる豪雪地帯です。雪を捨てたり、溶かしたりするために多くのエネルギーと費用がかかっています。雪国の人にとって雪はやっかいものです。しかし、この雪を雪冷房として利用すれば、通常の冷房とくらべて電気代を大きく抑えることができます。また、電力の消費が少ない雪冷房なら、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らす効果もあります。やっかいものの雪を天の恵みに変えられる。それが雪冷房です。
その昔、日本では雪を使って食品などを貯蔵しておく「氷室」という施設がありました。電気がない時代、ものを冷やすエネルギーとして、昔の人たちも雪を活用していました。雪冷房はその現代版。最近では、電力を大量に消費するデータセンター※などにも雪冷房が導入されるようになりました。雪を捨てるものから、新しいエネルギー源へ変えていきたいと思っています。
※インターネットの機器や装置を安全に保管、運用するための施設
本間さんが住む美唄市は、北海道の中でも雪が多くふる豪雪地。冬の生活に除雪は欠かせない。
雪に興味を持ったのは30年近く前になります。当時は建設会社で設計の仕事をしていました。ある時、札幌市にある「モエレ沼公園」という大きな公園の施設に雪冷房を導入するプロジェクトの担当になったのです。しかし全く知識がなかったため、雪を研究している大学の先生に教わりながら勉強しました。するとおもしろくなり、すっかり雪の虜になってしまいました。
わたしは北海道で生まれ育ち、小さい頃から雪はイヤなものでした。それが発想を変えれば役に立つ、しかも地球にやさしく、電気代も安くなると知って驚きました。この雪冷房の技術はきっと世の中に役立つと確信し、もっと広めたいと思いました。そこからは雪冷房の仕事を多く担当し、2012年に自分の会社を立ち上げました。
イベントで雪だるまをつくる雪博士の本間さん。雪をあつかう会社ということで、会社名に「雪屋」を入れた。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
雪冷房に取り組み始めてしばらくは、周囲の人から冷たい目で見られていました。「夏まで雪をとっておけないだろう」と言われ、理解してもらうのが大変でした。そんな苦労があっても、収穫したお米を雪冷房で保存している農家さんから、「大事に育てたお米を長く、おいしく保存できてうれしい」と言ってもらえたり、お客さんに喜んでもらえたりすると、やってよかった、次もがんばろうと思うことができます。雪冷房は温度や湿度を一定に保つことができるため、お米や野菜を長期間、おいしい状態で保存できると言われています。
2011年の東日本大震災の時は、電力不足になった東京に雪を運び、ホテルの冷房に活用してもらったこともありました。今では地球温暖化や環境問題に対する世の中の意識が変わり、多くの人に雪冷房のメリットを理解してもらえるようになりました。今は胸を張って雪の仕事に取り組んでいます。
雪国に暮らす人たちが、雪国の未来を考え、交流する「雪の市民会議」の副代表も務めている。
やんちゃな問題児で、勉強はきらいでしたが成績は良く、先生にとっては扱いにくい子どもだったと思います。高校生になっても勉強ぎらいは変わらなかったのですが、さすがに成績が落ちてしまい、3年生の時に1年生の教科書からやり直した苦い思い出もあります。子どもの頃のおやつと言えばチョコボールですね。おもちゃの缶詰をもらったこともあります。キョロちゃんが好きで、マスコットも集めていました。
雪国を悩ませる雪を活用し、社会を豊かにしたいと考えています。私が暮らす美唄市は過疎化が進んでいますが、雪を活用しながら産業を育て、未来へ向けて持続可能な社会にすることを目指しています。
仕事をするときに私が大事にしているのは50年後、100年後、長い目で物事を考え、判断すること。みなさんも頭の中で未来を想像してみてください。50年後や100年後、どういう社会になっていればいいかを考えてみてください。それが豊かな社会につながっていくことだと思います。
プロフィール
北海道生まれ。室蘭工業大学と同大学院で建設を学ぶ。札幌市の大手建設会社にいた時に、母校で雪冷房システム研究の第一人者である媚山政良先生に師事し、工学の博士号を取得。2012年、恩師の名をもらった「雪屋媚山商店」を設立した。