カカオ豆の長い旅
ココアとチョコレートが出来るまで 作り方編

空豆ほどの大きさのカカオ豆。一体どのような過程を経て、おいしいココアやチョコレートに変身するのでしょうか。
ココアやチョコレートができるまでを、順番にみていきましょう。

カカオマスのできるまで(ココア・チョコレート共通)

1. 原料調達

良質の豆を手に入れる。

2. 選別

悪い豆や混入しているゴミ、金属などを除去する。

3. プレロースト

カカオ豆の外皮(ハスク)を剥がしやすくするため、赤外線ヒーターにより表面を加熱する。

4. 分離

豆を均等に砕く。同時にプレロースと処理の効果で剥がれてきた外皮を取り除く。
残った胚乳部分をカカオニブという。

10%のやっかいもの、ハスク

チョコレート色にローストされたカカオ豆には、まだハスクと呼ばれる外皮がついています。豆そのものはローストで亀裂が入っているので、もろくなって砕きやすいです。しかしハスクはピーナツの皮のように簡単に剥ぎ取る事はできません。
これを取り除くにはもろくなった豆全体を粗く破砕し、風を送ってハスク部分を吹き分ける方法がとられます。
ここで問題となるのが破砕するサイズです。
細かく砕けば砕くほどハスクは取り除きにくくなるので、粗く破砕するとともに、細かい破片がでないようできるだけできるだけ均一のサイズに砕く必要があります。細かいものが多くなればそれだけハスクも多く残ってしまうからです。
ハスクは豆全体の10%程度の体積ですが、チョコレートのなめらかな舌ざわりのためには必ず排除しなければなりません。

カカオ豆

5. 反応(アルカリゼーション)※ココアのみ行います。

酸性のカカオニブをアルカリ剤で中和させる。
それにより、酸味、渋みが改善され、柔らかな風味と渋みのあるココアいろが出てくる。

6. ロースト

カカオニブを炒り、ココアの香りを引き出す。

カカオ豆のロースト

カカオ豆のロースト(焙煎)には2つの目的があります。
ひとつは、生の豆を香ばしく煎りあげる(焙煎)こと、もうひとつは豆を包んでいる薄皮(ハスク)をはがれ易いように果肉から浮かせることです。
チョコレートの香ばしさは、カカオ豆中に含まれているいろいろな化合物が発酵・乾燥・ローストされていくうちに化学反応を起こして完成します。
従って、正しい発酵や乾燥が行なわれていないカカオ豆は、どんなにローストしてもチョコレートの香りが出てきません。
ローストは、このチョコレートの風味を引き出す最終段階と言えます。十分に発酵したカカオ豆をローストすると、その成分中のアミノ酸と還元糖が反応してメラノイジンという褐色物質が生成されます。これをメイラード反応と言います。チョコレートの香りの主体はこの生成物です。

7. 磨砕

カカオニブをすりつぶすと脂肪分(ココアバター)が溶け出し、ドロドロのカカオマスになる。

1時間に1トンの豆をすりつぶす

ローストされ粗く砕かれたカカオ豆は、外皮(ハスク)と胚芽を取り除かれてニブといわれる胚乳の部分だけになります。このニブを単にすりつぶすだけではなく、ペースト状に仕上げることを「磨砕」(まさい)といいます。
ニブには約55%のココアバターといわれる脂肪が含まれているので、細かく磨砕すればするほど多くのココアバターが遊離し、これが同時に摩擦熱によって溶けてカカオのペーストを作ります。これをカカオペースト、カカオマス、カカオリカーなどと呼びます。
磨砕工程は、先住メキシコ人がチョコレートの先祖であるショコラトルを作るためカカオ豆をすりつぶしたことと原理的にはまったく変わりません。 彼らは熱した石で磨砕し、私たちは機械でそれを行いますが、違いはその細かく砕く能力と時間です。今日のリカーミルは1時間に1トン以上の処理能力があります。

ココアのできるまで

1. 搾油

ブレンドしたカカオマスから一定量の脂肪分を取り除くと、固形のココアケーキになる。
本来カカオ豆には脂肪分が約55%含まれているが、これを10~24%の幅(ココアの種類によって異なる)に調整する。

2. 粉砕

ココアケーキを粉砕器で粉々に砕き、微粉末のココアパウダーにする。

3. テンパリング

ココアパウダーを冷風にあてる。
これによりココアパウダーの中の脂肪分が、均質で微細な安定した結晶になるため、ココアパウダーの色艶が一層増す。

チョコレートのできるまで

1. 混合

カカオマスに砂糖・粉乳・ココアバター等他の原料を加え、よくかき混ぜる。

耳たぶ程度の柔らかさをめざして

磨砕機によってカカオがペースト状になると、ここで砂糖やミルク、そしてココアバターが加えられ、ミキサーで混合されます。つまり、初めてチョコレートの原料がすべてそろうわけです。脂肪分の多いカカオペーストに砂糖を加えることは、まるで水に乾燥した粉を加えるのと同じで、十分に時間をかけて混合しなければなりません。
こうして混合されたものはチョコレートドゥと呼ばれます。ドゥは次の工程でロールにかけられて最終磨砕されますが、問題はその柔らかさです。一般に耳たぶ程度の柔らかさがちょうどよいと言われています。それ以上柔らかいと、次のロールによる磨砕の能率が落ち、硬すぎると十分に磨砕できません。

2. 微細化

レファイナー(粉砕を行う機械)の何本ものローラーでさらに細かくすりつぶし、粉にする。

舌さわりの秘密は

チョコレートのなめらかさには独特のものがあります。トロリとしているが決して液体のようにさらりとしているわけではありません。
舌に十分感じ取れるなめらかさです。なぜ、このようななめらかさが得られるのでしょうか。それには科学的な理由があります。
チョコレートの粒子は約20ミクロン程度(1ミクロンは1000分の1ミリメートル)に揃えられていますが、実は、この粒子の大きさが舌で感じられるザラツキの最小単位なのです。すりつぶすといっても、適当にやっているのではなく、科学的な裏づけに基づいて行なわれているのです。

さて、このミクロの磨砕を行なう最終磨砕工程は、5本のスチール製ロールを重ねた5段ロールの機械で行ないます。上下から押し付けられたロールは互い違いに逆回転し、しかも回転数は上段のロールに行くにしたがって高くなっています。
こうすることによって、原料を上に引っぱり上げると同時に、押しつぶす力ではなく引きちぎる力によってチョコレートドゥを磨砕します。上へ上へと引っぱられた原料は、ロールの間を通ってゆくうちに徹底的に磨砕されます。この間、原料の粒子の表面積は増大し、なんと1g当りの表面積の合計は1㎡(平方メートル)にもなります。
そのため油分は不足し、耳たぶ程度の柔らかさだったドゥはパサパサの粉体になってロールから出てきます。これが、チョコレートフレークと呼ばれるものです。

ところで、ロールを1本1本詳しく測ると、中央が眼に見えない程度にふくらませて作ってあり、全くの平らではないことがわかります。これは、ロールの中央部と端の部分とで均一に圧力がかかるようにするためです。

3. 精錬

コンチングマシーンで長時間練り込み、滑らかなチョコレートにする。

半日練り上げられるチョコレート

1880年にロドルフ・リンツによって発明され、その効果の偉大さが認められて以来、100年以上の間、まさにチョコレート製造の心臓部といわれているのが、このコンチング工程です。簡単に言えば、練る作業のことです。発明当時の形に近い旧式のコンチングマシンではなんと72時間練り続けなければなりず、今日のマシンでも12時間、つまり半日を費やさなければなりません。

なぜ、これほどまでにチョコレートは練り続けなければならないのでしょうか。
コンチングの役目は2つあります。まず、ローラーにかけられパサパサになったチョコレートフレークから不要の水分や不快臭を取り除くことです。成分中の油分がにじみ出て徐々に軟化してくるまで、4時間から5時間の間強力に練られます。不必要な成分がこの間に蒸散し取り除かれてしまうと本来のアロマが引き立ってきます。次は乳化。油脂分(ココアバター)を加えて高速で練るわけですが、この時間が5時間以上続けられます。こうして、水分や臭いがなくなり、フレーバーが形成され、トロリとした舌ざわりのチョコレートが完成します。

もし、このコンチングという工程がなかったらどうなるでしょうか。
チョコレートはザクザクとして舌ざわりが悪く、原料の生臭さが残り、流動性も十分ではないものとなります。味も単なる原料の混合物程度のものでしかなく、とてもチョコレートという確立されたものとは程遠いものでしょう。

4. テンパリング

チョコレートの中の脂肪分を安定させ、光沢あるチョコレートにするために、テンパリングマシーンで温度調節しながらさらに攪拌する。

溶けたチョコレートは元に戻るか

チョコレートが溶けたり固まったりするのは、そこに含まれているココアバターの性質からきています。専門的になりますが、ココアバターは不安定な結晶と安定した結晶の両方からなる多結晶系の物質ですから、そのままでは極めて不ぞろいな組織です。コンチで練り上げられたチョコレートは、この安定した結晶を均一に分散してやる工程へ進みます。この工程がテンパリング、または温調といわれるものです。
まず、溶けたチョコレートを26℃から28℃ぐらいに冷やします。すると、安定、不安定のいろいろな結晶が析出してきます。次にそれを28℃から32℃に加温すると、今度は不安定な結晶だけが溶けます。後に残るのは、融点がそれよりも上の33℃から34℃の安定した結晶だけです。
この温度調節を攪拌しながらおこなうのが、テンパリングです。単に冷やしただけだと、チョコレートはいつまでもベタベタして固まらず、組織ももろく、ツヤもでません。テンパリングを行なったものは、これと逆に硬くしまった組織となり、光沢もよくなります。

5. 充填

型に流し込むなどして成型する。

6. 冷却・型抜

成型したものをコンベア上で冷やし固めてから型からはずす。

7. 検査・包装

それぞれの種類毎に包装し、ケース詰めする。

8. 熟成

チョコレートの品質を安定させるために、一定温度・期間貯蔵し、熟成させてから出荷する。

眠るチョコレート

成型され包装されたばかりのチョコレート。一見するとしっかり固まって、製品完成というところですが、実はそうではありません。
硬そうに見えるのは外見だけ。まだこの段階では、カカオバターの結晶化が完全に行なわれたわけではありません。カカオバターの組織は安定した結晶と不安定な結晶の両方からなっていますが、安定した結晶が均一になっているほど溶けにくいのです。

成型される前のテンパリングという工程である程度の均一化は行なわれていますが、それでもまだ非結晶状態の、すなわち固まっていない脂肪が10%以上も残っています。この状態のチョコレートは非常に温度の影響を受けやすいので、ほんの少し温度が上がっただけで軟化・変形・ツヤの消失・ブルーム発生・包装紙への付着などが起こってしまいます。