パセノール™
目次
パッションフルーツは南米原産のフルーツで、代表的な品種としてクダモノトケイソウ (Passiflora edulis) があります。果実は直径5~8cmのやや楕円形をしており、右写真のように、厚い果皮の内部に黒色の種子を包む橙黄色の透明ゼリー状の果肉小房が詰まっています。南国風な甘味と酸っぱさがあり、独特の爽やかな芳香があります。日本では鹿児島や沖縄などで見かけることができます。
パッションフルーツは、果実を半割にしてそのまま果肉を種子ごと食べることができます。種子は噛むと簡単にパリパリと割れ、種の歯触りが楽しいフルーツです。生果として食べられるだけでなく、果汁や濃縮したピューレは世界中で広くジュース、キャンディー、ジャムなどで使われています。種子から得られるオイルは化粧品などに利用されています。
パッションフルーツは、昔から抗不安作用や抗うつ作用があるとされ、生薬や漢方薬としても利用されてきました。また、特に種子中に機能性成分であるポリフェノールが多く含まれていることが分かってきています。
パセノール™とは、森永製菓が食品素材の研究を広く進めた結果、独自に開発に成功したパッションフルーツ種子エキス (passion fruit seed extract)です。ポリフェノールであるピセアタンノール (piceatannol) やその二量体であるスキルプシンB (scirpusin B) を多く含んでいます。森永製菓は世界で初めてパッションフルーツ種子の中にピセアタンノールが豊富に含まれていることを発見 (下図参考) し、ピセアタンノールを高い濃度で抽出することに成功しました。この新しいエキスが皆様の健康に役立てるように、その誕生に想いを込めて“パセノール™”と名前をつけました。
健康な成人男女10名を対象に、パセノール™含有飲料摂取時とパッションフルーツ果実を摂取時のピセアタンノール吸収性を比較しました。この試験で摂取したパセノール™含有飲料および果実中に含まれるピセアタンノール量は、それぞれ100mg相当、270mg相当でした。その結果、パセノール™含有飲料を摂取した際の血漿中濃度と摂取180分後までの血漿中ピセアタンノール濃度の曲線下面積(AUC)が果実摂取時よりも有意に上昇し、AUCにおいては、パセノール™含有飲料摂取時は果実摂取群のおよそ12倍でした。
この結果から、パセノール™の摂取は、パッションフルーツ果実の摂取よりもピセアタンノールの吸収性に優れることが示されました。
パセノール™の主成分であるピセアタンノールは右図のように、アンチエイジング成分として注目されているレスベラトロール (resveratrol) と非常によく似た構造をしています。また、スキルプシンBは、ピセアタンノールが2個つながった構造をしており、強力な抗酸化活性を持っています。
レスベラトロールは赤ワインやブドウ中に多く含まれており、長寿に関わる因子として注目されている脱アセチル化酵素の一種であるサーチュインの活性化やフレンチパラドックス (フランス人は喫煙率が高く、飽和脂肪酸の多い食事を摂取しているにもかかわらず、冠状動脈性心臓病に罹患することが比較的低いこと) の一因と言われています。
マサチューセッツ工科大学(米国)のレオナルド・ガレンテ氏と当時同ラボのポスドク(博士研究員)であった今井眞一郎氏が、サーチュイン遺伝子が老化と寿命の制御に極めて重要な役割を果たしていることを発見しました(2000年2月、Natureで発表)。
サーチュイン遺伝子は、「長寿遺伝子」「抗老化遺伝子」などともよばれ、サーチュイン遺伝子が活性化することで、老化を抑制し長寿につながると考えられています。
森永製菓では、ピセアタンノールが生理機能においてレスベラトロールよりも優れた作用を持つ可能性が高いと考え、パセノール™に含まれるピセアタンノールやその二量体であるスキルプシンBのアンチエイジング素材としての基礎研究や応用研究を積極的に行っています。
血管への作用
動脈血管はスムーズな血流を維持するために、しなやかに拡張・収縮しなければなりません。しかし老化や食生活の乱れは血管を硬くし、動脈硬化、虚血性心疾患など心血管疾患を引き起こします。血管の拡張・収縮は筋肉である血管平滑筋の作用ですが、その平滑筋に指令を出す血管内皮細胞の働きが重要です。NO (一酸化窒素) には血管の拡張や保護作用が知られています。
レスベラトロールは心血管疾患に対する保護作用が報告されています。そこでパセノール™およびその主成分であるピセアタンノールまたはスキルプシンBの血管への作用を検討しました。
(1)NO産生による血管拡張作用 (ex vivo)
:山形大学との共同研究
血管に対するパセノール™、ピセアタンノールまたはスキルプシンBの作用を評価しました。その結果、パセノール™、ピセアタンノールまたはスキルプシンBによって、血管は拡張しました。更に検討した結果、血管内皮細胞に作用し、NO産生を促進することで血管を拡張させていることが分かりました。パセノール™、ピセアタンノールまたはスキルプシンBはNOを介して血管を拡張させることから、心血管疾患の予防が期待できると考えられます。
S. Sano et. al., J. Agrc. Food Chem 59, 6209 (2011)
(2)eNOS増強作用 (in vitro)
レスベラトロールは内皮細胞でNO産生酵素であるeNOS (endothelial nitric oxide synthase) の発現を促進することが知られています。そこでパセノール™の主成分であるピセアタンノールがeNOS発現へ及ぼす影響を検討しました。血管内皮細胞において、ピセアタンノールはeNOSおよびリン酸化eNOS (eNOSの活性型) の発現量を増加させました。またその作用はレスベラトロールより強いことが分かりました。老化に伴う血管機能の低下にはeNOSの機能低下が関与していることが知られていることから、ピセアタンノールはレスベラトロールに比べ血管機能をより改善する作用があると考えられます。
酸素を利用してエネルギーを作りだしている我々の体内では、酸素を利用すると同時に活性酸素も生じています。特に筋肉は、筋収縮時に活性酸素種(ROS)が生成し、長時間または反復的な筋収縮や加齢による抗酸化能の低下によって、筋細胞内のROS量は上昇します。ROS量が高い状態が持続すると、筋疲労や筋萎縮等の障害、運動能力の低下が現れ、生活の質(QOL)の低下の原因ともなります。そこで、ピセアタンノールの抗酸化能について、筋管細胞(C2C12細胞)を用いて評価しました。
その結果、ピセアタンノールは、生体内抗酸化酵素であるHO-1(heme oxygenase-1)やSOD1(superoxide dismutase 1)の遺伝子発現を濃度依存的に上昇させました。特に、HO-1誘導効果についてピセアタンノールは、他の抗酸化作用のあるポリフェノール類と比べて、顕著に高いことを示しました。さらに、筋管細胞に過酸化水素(H2O2)を作用させてROSの発生量を蛍光強度で測定する評価系において抗酸化能を評価したところ、ピセアタンノールを事前に添加することによってROSの産生が有意に抑制されました。
以上のことから、ピセアタンノールは生体内抗酸化酵素の発現を高め、筋細胞において抗酸化作用を発揮し筋疲労や運動能力低下を防ぐ可能性が示唆されました。
肌は体の一番外側で多くの刺激に曝されています。紫外線・老化によるシミやしわ、たるみといった肌の変化は見た目年齢に大きく関わっています。パセノール™の主成分であるピセアタンノールまたはスキルプシンBの肌へのアンチエイジング作用をメラノサイト (色素細胞) 、線維芽細胞、角化細胞それぞれで検討しました。また、肌水分や弾力に及ぼす影響を、ヒト試験でも検証しました。
(1)メラノサイトへの作用:弘前大学との共同研究
パセノール™の主成分であるピセアタンノールのメラニン産生に対する影響を検討しました。メラニン産生細胞において、ピセアタンノールは濃度依存的にメラニン合成量を低下させ、その効果はレスベラトロールよりも強いことがわかりました。メラニンは主に紫外線の刺激により産生され、シミの原因となります。ピセアタンノールはメラニンの合成を抑制することでシミの形成を抑える可能性が示されました。
(2)線維芽細胞への作用:弘前大学との共同研究
パセノール™の主成分であるピセアタンノールの真皮でのコラーゲン産生に対する影響を検討しました。真皮線維芽細胞において、ピセアタンノールは濃度依存的にコラーゲン産生量を増加させ、その効果がレスベラトロールよりも強いことがわかりました。コラーゲンは真皮層で肌に弾力やはりを与えており、加齢によりその量が低下することが知られています。ピセアタンノールはコラーゲンの産生を促進するので肌のたるみ、しわなどの老化を抑える可能性が示されました。
(3)角化細胞への作用:東京工科大学との共同研究
パセノール™の主成分であるピセアタンノールやスキルプシンBの皮膚表面の角化細胞に対する影響を検討しました。角化細胞において、ピセアタンノールやスキルプシンBは抗酸化物質であるグルタチオン (glutathione, GSH) の量を増加させました。またUV刺激で上昇した活性酸素はピセアタンノールにより抑制されました。次に角化細胞が線維芽細胞に与える影響を検討しました。線維芽細胞をUV刺激後の角化細胞培養液で培養すると、線維芽細胞のコラーゲン分解酵素活性は上昇しますが、ピセアタンノールを角化細胞に作用させることで線維芽細胞コラーゲン分解酵素活性は抑制されました。ピセアタンノールはUV刺激による活性酸素を抑制し、間接的に線維芽細胞でのコラーゲン分解を抑制したことから、光老化による肌のたるみ、しわを抑える可能性が示されました。
ピセアタンノール30㎎摂取試験(東京工科大学との共同研究)
30〜60歳代のお肌の健康が気になる健常成⼈男⼥19名を対象に、パセノール™を配合したドリンクの効果試験を⾏いました。パセノール™を1⽇当たりピセアタンノールとして30mg含むパセノール™飲料(ピセアタンノール群)を8週間連続で摂取してもらい、⽪膚⽔分量、経表⽪⽔分蒸散量(TEWL)、肌弾⼒(R7)および⽑⽳形状へ与える影響について、層別無作為化⼆重盲検プラセボ対照並⾏群間⽐較にて検証しました。
その結果、⽪膚⽔分量の変化量において、8週⽬でピセアタンノール群はピセアタンノール不含のプラセボ群と⽐べて有意に上昇しました。また、TEWLについても群間差はなかったものの、ピセアタンノール群のみが摂取前に対して有意に抑制しました。さらに、退縮時の弾性部の割合を⽰すR7においては、プラセボ群では摂取前に⽐べて変化がなかったのに対し、ピセアタンノール群では8週⽬で有意に上昇し、その変化量はプラセボ群に対しても有意に⾼い値を⽰しました。
以上のことから、肌の乾燥を有する(乾燥に悩む)健常な中⾼齢男⼥において、ピセアタンノール30㎎を含むパセノール™を摂取することによって、肌⽔分が維持され、肌の弾⼒を保ちQOLを向上させる可能性が⽰唆されました。
ピセアタンノール10mg摂取試験
30歳以上60歳未満の女性66名を対象に、1日当たりピセアタンノールを10mg含む被験食品を8週間毎日摂取した際の皮膚粘弾性を測定しました。その結果、摂取8週後に、ピセアタンノールを含まない対照食品摂取群(プラセボ群)と比較して、被験食品群にて皮膚粘弾性指標であるR5が摂取後の測定値および摂取前後での変化量が有意に高い値を示しました。また、R2やR7といった皮膚粘弾性指標も、プラセボ群と比較して被験食品群にて粘弾性指標を向上させる傾向が見られました。
以上の結果から、ピセアタンノール10mgを含む食品の摂取が肌弾力を改善することが期待できます。
吉原瑞樹ら.薬理と治療 51(8), 1187-93 (2023)
早稲田大学との共同研究
近年、食品成分がサーカディアンリズム(概日リズム、体内時計)を司る時計遺伝子の発現変動に寄与するとして、時間栄養学や時間生物学の分野で広く研究されています。この時計遺伝子は、視床下部の中枢時計だけでなく、各臓器に存在する末梢時計においても重要であることが明らかとなっています。
そこで、パセノール™およびピセアタンノールが、体内時計を司る時計遺伝子の発現変動に及ぼす効果について、時計遺伝子の制御ループを構成するPER2に注目し、in vitroおよびin vivoレベルで検証しました。
<in vitro>時計遺伝子の一つであるPeriod2(Per2)を染色体に組み込んだmPer2Luc knock-inマウスから得たマウス胎児線維芽細胞を用い、細胞リズムを同調させた後、ルシフェリンを含む培地に交換し、発光強度をルミサイクルにて測定しました。
その結果、内因性リズムの位相Circadian Time(CT)4において、100μMピセアタンノールおよび100μMピセアタンノールを含むパセノール™で刺激すると、PER2::LUCの位相が有意に前進しました。
<in vivo>mPer2Luc knock-inマウスを、通常食、高脂肪食、0.2%ピセアタンノール含有高脂肪食の3群に分け、15日間飼育した後、in vivo imaging system (IVIS)により肝臓、腎臓、顎下腺のPER2::LUCの発光リズムをモニタリングしました。
その結果、通常食(NF)に対して高脂肪食(HFD)で後退するPER2::LUCの発光リズムは、ピセアタンノール添加食により通常レベルまで戻りました。
以上のことから、パセノール™やその有効成分であるピセアタンノールは、時計遺伝子の発現変動に影響を与え、生体リズムを調節する可能性があることが示唆されました。
山形大学との共同研究
0.5%のパセノール™を含有する高脂肪食(ピセアタンノール0.047%含有)をラットに16週間与えた群は、パセノール™不含の高脂肪食のみを与えたコントロール群に比べ、血中コレステロールや中性脂肪の上昇が有意に抑制されました。
A. Ishihata et. al., Food & Function 7(9), 4075 (2016)
ピセアタンノール10㎎摂取試験
20~40代の疾病の無い成人男女9名を対象に、1日当りピセアタンノール10mgを含むゼリー飲料を7日間摂取させ、安静時、および日常活動レベルの運動時の呼気ガスを測定して、脂肪の燃焼割合(脂質代謝比率)の変化を、対照食(プラセボ)摂取の場合と比較しました。その結果、ピセアタンノールを摂取した場合、対照と比較して有意に呼吸商が低下し、脂肪を消費する割合が上昇していました。これは、安静時(座位)の時、日常活動レベルの運動時(エルゴメーターにて2~3Metsの負荷)、どちらの状態に限定されることはありませんでした。脂肪代謝の比率を計算すると、安静時では、脂肪の平均燃焼量は約4割上昇していました。
加えて、運動時の負荷をVO2 50%とした中程度の運動時においても、脂肪の燃焼を促進する機能が確認されています。
Adrianus David Tanzil et al., Jpn Pharmacol Ther48 (7), 1235-40 (2020)
松井直子ら.薬理と治療 49(5), 731-8 (2021)
S. Kawakami et al., Life, 12, 38 (2022)
以上のことから、パセノール™は脂質代謝を促進する機能を有する可能性が考えられました。
肥満・糖尿病発症モデルマウスであるdb/dbマウスに、ピセアタンノール(50mg/kg)やパセノール™ (ピセアタンノール当量で50mg/kg)を経口投与したところ、コントロール溶液を投与した群に比べて、1時間後の血糖値が有意に低下し、その効果は3時間後まで継続しました。
H. Maruki-Uchida et. al., Biol. Pharm. Bull. 38(4), 629 (2015)
東京大学との共同研究
正常ラットを用いた糖負荷試験では、糖負荷150分前にピセアタンノール(100mg/kg)を動脈投与すると、血糖値の上昇が抑制され、糖負荷125分までのAUC(area under the curve)がコントロールに比べて有意に低く、またインスリンインデックスが上昇しました。
金沢医科大学との共同研究
20~70歳代のBMI30未満の男女39名を対象に、ピセアタンノール20mgを含有するパセノール™を8週間摂取してもらい、インスリン抵抗性について検証しました。
その結果、BMI 25未満の被験者や女性被験者では、血中インスリン濃度やインスリン抵抗性の指標となるHOMA-IRは変化しなかったのに対し、BMI 25以上の男性被験者においてピセアタンノール摂取群は、プラセボ摂取群と比べて有意な血中インスリン濃度の低下とHOMA-IRの改善が認められました。
以上のことから、パセノール™は耐糖能を改善し、血糖値の上昇を穏やかにする機能があることが示唆されました。