<研究の概略>
・「おっとっと」や「ホットケーキ」はおやつに関する発話割合が大きかった
・おやつの特徴が、子どもの共食の場の楽しみ方を豊かにしていた
<研究背景と目的>
「食」は、成長に必要な栄養を摂取する生理的機能に加え、共食を通じて基本的な食習慣を身につけ、人間関係を形成する社会的機能も担います。保育所では「食育」の推進が掲げられていますが、子どもたちの自然な食行動や仲間とのやりとりに着目した研究は少なく、特に低年齢の子どもは、生理的機能を充足させることに重きが置かれがちで、自然な食行動の観察研究はあまり行われていません。しかし、乳幼児期のおやつは「補食」としての生理的機能だけでなく、おやつ時間での気分転換や共食の時間を楽しむといった社会的機能も果たしています。そこで、本研究では、保育の中でのおやつ時間に着目し、ふだんのおやつ、立体的な形のある菓子(おっとっと)、調理工程を含む菓子(森永ホットケーキミックスを子どもたちが作って食べる)の3つの場面で子どもたちのやりとりを観察し、おやつの楽しさと共食の場の特徴を明らかにすることを目的としました。
<研究手法>
3つの保育施設に協力を依頼し、2歳、3歳、5歳児クラスの子どもたちと保育者を対象に行いました。おやつの場面として、①普段のおやつ(おにぎりまたはせんべい)、②立体的な生き物形のスナック菓子(おっとっと)、③調理工程を含む菓子(森永ホットケーキミックス)の3つの異なる場面を設定し、テーブルごとにカメラとボイスレコーダーを設置し、映像と音声を記録しました。また、おやつ喫食後には、子どもたちと保育者に感想をヒアリングし、おやつに関係した遊びが展開された場合も観察・記録しました。
分析1: 3つのおやつ場面の特徴を子どもの発話数および喫食時間により明らかにしました。対象児の発話を文字に起こし、発話のターン数をカウントし、また、発話を「その日のおやつに関する発話」とそれ以外に区別し、全発話数のうちおやつに関する発話数の割合を算出しました。さらに、対象児が食べ始めてから食べ終わるまでの時間を計測しました。
分析2:3つのおやつ場面の特徴について、アフォーダンス理論(※)の視点から検討しました。特におやつというモノの特徴に子どもたちがアフォードされる様子が特徴的に見られる場面を抽出し、動画・音声データを用いてテーブルについた全員のやりとりを身体表現も含めて文字に起こしました。おやつの特徴であるアフォーダンス、子どもたちや保育者のやりとり、そこから読み取れる子どもの心情や発達との関わりに着目して分析を行いました。
※アフォーダンス理論とは
Gibson.J.J.氏の造語で、「環境やモノがその意味を私たち動物に提供=Affordしている」という概念であり、私たちの「行為の資源」となる、と表現される。環境やモノが、動物やヒトの行為を引き出す性質を持っているという理論のこと。
<研究結果>
ふだんのおやつでは、子どもたちがおやつ以外の別々のモノのアフォーダンスをピックアップして発話することから、やりとりは持続せず発話数も少ない結果となりましたが、ふだんと同じおやつで展開が既知であることによる安心感や自由さが感じられました。おっとっとでは、豊富な形やつまめる大きさ、空き箱の写真などのモノ自体の特徴により、活発なやりとりが生まれました。各園、各テーブルでよく似たルーティンが出現し、やりとりの持続性及び発話数の増加に影響していると考えられました。2歳児クラスでは保育者が関わりながらも、菓子のアフォーダンスを利用して子ども同士のやりとりが促進されました。3歳児クラスでは、保育者の手を借りずに子どもたちだけで楽しいやりとりに発展させる様子が見られました。5歳児クラスでは、菓子が無い状態でも菓子から連想された話題で会話が続く様子が観察されました。ホットケーキでは、ミックス粉に卵や牛乳を入れて混ぜる、焼く、ひっくり返す、膨らむ、焼き色がつく、匂いがしてくる、といった工程の中で、多様な気付きや調理行為につながり、子どもたちがホットケーキを仲間と共に作る中で、環境の変化を多角的・統合的に知覚している様子が観察され、喫食場面では、おやつに関する発話割合が高い結果となりました。保育者からの後日談として、子どもたちからの要望で再度ホットケーキ作りをし、フルーツシロップのトッピングを楽しんだという事例もあり、子どもたちにとってホットケーキは、「自ら作る・自ら選ぶ」という自由度が高く、食事には無い、特別感を感じている可能性が示唆されました。